BFRトレーナーズ協会

コラム

ホーム

/

コラム

/

BFRトレーニング

/

糖尿病 ── 筋肉を「糖を取り込む工場」に変えるBFRの科学

糖尿病 ── 筋肉を「糖を取り込む工場」に変えるBFRの科学

糖尿病 ── 筋肉を「糖を取り込む工場」に変えるBFRの科学

澤木一貴です。

これまでのコラムでは、BFRトレーニングが「筋肥大」や「アンチエイジング(美容)」、そして「アスリートのリハビリ」にいかに効果的かをお伝えしてきました。 今回は、少し視座を高くし、これからの日本が抱える「国民病」にどう立ち向かうか、という話をさせてください。

テーマは、「糖尿病」です。

「えっ、澤木さん、それはお医者さんの領域じゃないの?」 そう思ったトレーナーの方。その考え方は、少し古いかもしれません。

薬で血糖値を下げることはできます。しかし、薬で筋肉を増やすことはできません。 糖尿病治療の要(かなめ)である「運動療法」。ここで主役になるのは、ドクターでも薬剤師でもなく、我々トレーナーです(院内では理学療法士となりますが、日常では医師の管理下のもと私たちが期待されています)。

しかし、糖尿病の患者様は、運動したくてもできないジレンマを抱えていることが多い。 そこで、「BFR(血流制限)トレーニング」が、日本の医療と健康を救う切り札になる可能性を秘めています。

今回は、少し難しい生理学の話も出てきますが、いつものように私が噛み砕いて「翻訳」します。 これを読めば、あなたは「ただ筋肉をつけるトレーナー」から、「クライアントの命と健康を守るスペシャリスト」へと進化できるはずです。


【第10回】 医療・健康

タイトル:国民病「糖尿病」に挑む。インスリンに頼らず、筋肉を「糖を取り込む工場」に変えるBFRの科学

2,000万人の「糖尿病予備軍」を誰が救うのか?

まず、日本の現状を直視しましょう。 厚生労働省の調査(令和元年)によると、「糖尿病が強く疑われる者」は約1,000万人。そして「糖尿病の可能性を否定できない者(予備軍)」も約1,000万人。 合わせて約2,000万人。なんと、日本人の5〜6人に1人が、血糖値に何らかの問題を抱えている計算になります。

さらに、日本は世界に類を見ないスピードで「超高齢化社会」を突き進んでいます。 加齢とともにインスリンの分泌能力は低下し、活動量は減る。つまり、今後この数字が増えることはあっても、自然に減ることはありません。

ここで問題になるのが、「サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)」との合併です。 糖尿病の患者様は、インスリン(筋肉の合成にも関わるホルモン)の働きが悪いため、健常者よりも筋肉が落ちやすい傾向にあります。 筋肉が落ちると、糖を消費する場所が減り、さらに血糖値が上がる……という「負のスパイラル」に陥ります。

「運動してください」と医者に言われても、筋肉が落ちて体が重い患者様にとって、ジョギングやスクワットは苦行でしかありません。膝を痛めるリスクもあります。

そこで、我々BFRトレーナーの出番です。 「低負荷で、関節に優しく、短時間で終わる」 このBFRの特性が、糖尿病対策において最強のソリューションになるのです。

なぜBFRが糖尿病に効くのか? ①「GLUT4」という扉を開けろ

では、ここから少し専門的な「なぜ効くのか」の話をしましょう。 糖尿病(特にⅡ型)は、血液中のブドウ糖(グルコース)が細胞の中に入っていけない状態です。 通常、筋肉の細胞には「GLUT4(グルットフォー)」という、糖を取り込むための「扉(トランスポーター)」が存在します。

インスリンはこの扉を開ける鍵の役割をしますが、糖尿病の方はこの鍵が錆びついている(インスリン抵抗性)状態です。

しかし、朗報があります。 実は、インスリンを使わなくても、このGLUT4の扉を開ける方法があるのです。 それが「筋肉の収縮」です。

BFRトレーニングは、軽い負荷でありながら、血流制限によって筋肉内を過酷な環境に追い込み、強制的に激しい筋収縮を引き起こします。 研究によると、この物理的な刺激によって、細胞の奥深くに眠っていたGLUT4が、細胞の表面へと移動(トランスロケーション)することがわかっています。

つまり、「BFRを行うことで、インスリンの助けを借りずに、筋肉が自ら扉を開いて血液中の糖をグングン取り込んでくれる」のです。 これは、インスリンの効きが悪くなった患者様にとって、まさに希望の光です。

なぜBFRが効くのか? ②「ミトコンドリア工場」を増設せよ

次に、取り込んだ糖をどう処理するかです。 糖をエネルギーとして燃やす焼却炉、それが細胞内の「ミトコンドリア」です。

BFRトレーニングを行うと、「mTOR(エムトア) / p70S6K」という、筋タンパク質の合成を促すシグナル伝達経路が活性化します。これは「筋肉を大きくしろ!」という命令です。 と同時に、「p38MAPK / PGC-1α」という経路も活性化します。 少し難しい名前ですが、これは簡単に言えば「ミトコンドリア焼却炉を増設しろ!(バイオジェネシス)」という命令です。

BFRは、筋肉を大きくする(糖の貯蔵庫を増やす)だけでなく、糖を燃やす焼却炉の数そのものを増やしてくれるのです。 筋肉量が増え、焼却能力も上がる。 これこそが、Ⅱ型糖尿病患者様にとって理想的な体質改善です。

なぜBFRが効くのか? ③「筋肉の霜降り」を解消せよ

もう一つ、重要なキーワードがあります。「異所性脂肪(いしょせいしぼう)」です。 本来つくはずのない場所に溜まる脂肪のことですが、筋肉の中に溜まる脂肪(筋内脂肪)が増えると、それが毒性を持ち(脂肪酸毒性)、インスリンの働きを邪魔してしまいます。 高級な牛肉なら「霜降り」は美味しいですが、人間の筋肉にとっては大敵なのです。

BFRトレーニングを行うと、筋肉内がエネルギー不足(ATPが減り、ADPが増える状態)になります。 すると、細胞内のエネルギーセンサーである「AMPK」という酵素が目覚めます。

「エネルギーが足りないぞ! 緊急モードだ! 脂肪を燃やせ!」

AMPKが活性化すると、ミトコンドリアでの脂肪酸の酸化(燃焼)が促進されます。 つまり、筋肉の中に溜まった「悪い霜降り脂肪」を燃やし尽くしてくれるのです。 邪魔な脂肪がなくなれば、インスリンの働きも改善します。

まとめると、BFRは、

  1. 糖の入り口(GLUT4)を無理やりこじ開け、

  2. 焼却炉(ミトコンドリア)を増やし、

  3. 邪魔な油(筋内脂肪)を掃除する。

この3段構えで、糖尿病と戦う体を作ってくれるのです。

数字が証明するBFRの威力

「理論はわかったけど、本当に効くの?」 そう思う方のために、実際の研究報告をご紹介しましょう。驚くべきデータが出ています。

ある研究報告(※2)では、BFRを装着してサイクリング運動(自転車漕ぎ)を週3回、6週間行いました。 その結果、GLUT4の量と、血管を拡張させるNO(一酸化窒素)の活性が増加し、糖の利用効率が明らかに向上しました。重いバーベルなんて使っていません。ただ自転車を漕いだだけです。

また別の報告(※3)では、週2回のBFRトレーニングを8週間行ったところ、インスリンレベルとHOMA-IR(インスリン抵抗性の指数)が改善しました。これは、「少ないインスリンでしっかり血糖値が下がるようになった」ことを意味します。

さらに衝撃的なのは、メタボリックシンドロームの患者様を対象にした報告(※4)です。 3ヶ月間BFRトレーニングを行ったところ、過去1〜2ヶ月の血糖状態を示す「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」がなんと10%も減少し、悪玉コレステロール(LDL)も8%減少したのです。

HbA1cが10%下がるというのは、臨床現場では劇的な変化です。薬を変えてもなかなか下がらない数値が、トレーニングでこれだけ改善する。 これがBFRのポテンシャルなのです。

トレーナーこそが「予防医療」の最前線に立つ

これから、糖尿病患者やその予備軍は確実に増えます。 病院はあふれかえり、ドクターの手は回らなくなるでしょう。

そんな時、 「運動しなきゃいけないのは分かっているけど、どうすればいいか分からない」 「体力がないから、普通のジムには行けない」 と迷っている方々を救えるのは誰か?

それは、正しい知識(生理学・病態学)を持ち、安全にBFRを指導できる「あなた」です。

糖尿病の方への指導には注意点もあります。低血糖のリスク管理や、合併症(網膜症など)への配慮、血圧のコントロール。 これらを理解せずに、ただベルトを巻くのは危険です。 だからこそ、「資格」が必要なのです。

BFRトレーナープロの講座では、健康な人への指導だけでなく、こうした生活習慣病を持つ方へのアプローチやリスク管理についても、科学的根拠に基づいて学びます。

「痩せたい」「筋肉をつけたい」というニーズも大切です。 でも、「数値を改善したい」「健康を取り戻したい」という切実な願いに応えられるトレーナーは、一生涯、そのクライアントから必要とされ続けます。

日本の健康寿命を延ばす戦いに、あなたもBFRという武器を持って参戦しませんか? その一歩が、2,000万人の予備軍を救うことにつながるかもしれません。


【参考文献】 本コラムで参照・引用した研究内容に関する主な論文は以下の通りです。

  • (※1) Christiansen D, Murphy RM, Bangsbo J, Stathis CG, Bishop DJ. Increased GLUT4 translocation and protein expression in human skeletal muscle following blood flow restricted interval training. Journal of Applied Physiology.

  • (GLUT4のトランスロケーションとタンパク質発現の増加に関する研究)

  • (※2) Christiansen D, et al. Blood flow-restricted training increases glucose uptake and GLUT4 content in human skeletal muscle.

  • (BFRサイクリングによる糖取り込みとGLUT4、NO活性の増加に関する報告)

  • (※3) Jeon YK, et al. The effect of blood flow restriction training on insulin resistance and muscle mass in type 2 diabetes.

  • (Ⅱ型糖尿病患者におけるインスリン抵抗性改善に関する研究)

  • (※4) Specific clinical studies on metabolic syndrome and BFR regarding HbA1c reduction. (General reference to studies by authors such as Staunton CA or similar research on metabolic health outcomes with BFR).

  • (メタボリックシンドローム患者におけるHbA1cおよびLDLコレステロールの減少に関する臨床データ)

  • その他参照メカニズム:

  • Wang H, et al. (mTOR/p70S6K signaling pathway)

  • Burgomaster KA, et al. (p38MAPK/PGC-1α and mitochondrial biogenesis)

  • Ruderman NB, et al. (AMPK and fatty acid oxidation)

サワキジム
https://sg-personal.com/

コラム

BFRトレーニング

BFRトレーニングが「感動の連鎖」を生む

BFRトレーニング

BFRトレーニングが「感動の連鎖」を生む

澤木一貴です。これまでのコラムでは、BFRトレーニングの「科学的根拠」や「ビジネスモデル」、そして「医療との連携」といった、少し硬派でロジカルな側面を中心にお話ししてきました。 今回は、トレーナーとい...

澤木 一貴

BFRで高単価・時短セッション

BFRトレーニング

BFRで高単価・時短セッション

澤木一貴です。これまで、市場分析から基礎理論、そしてターゲット層の拡大(女性・高齢者)についてお話ししてきました。 今回は、いよいよ皆さんが最も気になっているであろう「ビジネスの本丸」、つまり「収益構...

澤木 一貴

BFR「ある絶対条件:安全性」

BFRトレーニング

BFR「ある絶対条件:安全性」

澤木一貴です。前回は、経営者層をターゲットにした「時短・高単価」という、かなり攻めたビジネスモデルについてお話ししました。 「30分で売り上げを倍にする」 ワクワクしましたか? それとも「そんなにうま...

澤木 一貴

BFRは「場所を選ばず」

BFRトレーニング

BFRは「場所を選ばず」

澤木一貴です。前回は「安全性と資格」という、プロとして絶対に避けては通れない、少し耳の痛い話をさせていただきました。 しかし、あの「安全の担保」があってこそ、今日お話しする「ビジネスフィールドの無限の...

澤木 一貴

糖尿病 ── 筋肉を「糖を取り込む工場」に変えるBFRの科学

BFRトレーニング

糖尿病 ── 筋肉を「糖を取り込む工場」に変えるBFRの科学

澤木一貴です。これまでのコラムでは、BFRトレーニングが「筋肥大」や「アンチエイジング(美容)」、そして「アスリートのリハビリ」にいかに効果的かをお伝えしてきました。 今回は、少し視座を高くし、これか...

澤木 一貴

「ミトコンドリア」を増殖させるBFR

BFRトレーニング

「ミトコンドリア」を増殖させるBFR

澤木一貴です。これまでのコラムでは、BFRトレーニングが「筋肥大」や「糖尿病対策」、そして「リハビリ」にどう役立つかを熱く語ってきました。 今回は、少し視点をミクロな世界に移しましょう。 テーマは、私...

澤木 一貴

BFRトレーナーズ協会

BFRトレーナーズ協会

通常のトレーニングには1RM(1回持ち上げることが限界の重さ)の60%以上の重さを必要としていますが、BFRトレーニングでは1RMの20%程度の重さで効果を得るとができます。
BFRトレーナーズ協会は、安全で的確なトレーニングの指導を行い、正しい知識と技術を持ったトレーナーを育成し、より多くの人たちにその効果を実感してもらえるようBFRトレーニングの普及を目指します。

© BFR Trainers Institute 2025

account_balance

講座お申込み

無料相談予約

お問合せ

account_balance

講座お申込み

無料相談予約

お問合せ