コラム

日本の2人に1人が生涯でがんに罹患すると言われる現代において、フィットネスクラブやパーソナルジムに「がんの治療中」または「がんを克服した(がんサバイバー)」お客様が来訪される機会は年々増加しています。
そうした中、現場のトレーナーから多く寄せられるのが、「がん患者やサバイバーの方に、BFRトレーニング(血流制限トレーニング)を行ってもよいのか?」という疑問です。
本記事では、BFRトレーナーズ協会がこれまで示してきた「従来のガイドライン」を改めて整理した上で、近年の国際的な臨床研究で明らかになりつつある「がん領域におけるBFRトレーニングの最新エビデンスと新しい考え方」について解説します。
結論から申し上げますと、BFRトレーナーズ協会の公式テキストや従来の指導ガイドラインにおいて、「がん患者へのBFRトレーニングは原則として行ってはならない(禁忌)」と明記されています。また、寛解(症状が落ち着いた状態)後であっても、5年程度は安全を見て実施を控えることが推奨されてきました。
協会がこのように厳格な制限を設けてきた背景には、主に2つの生理学的・医学的懸念が存在します。
BFRトレーニングは、低負荷でありながら筋肉内の代謝環境を劇的に変化させ、タンパク質合成のシグナル経路である「mTORC1」を強力に活性化させます。これは健常者にとっては画期的な筋肥大効果をもたらしますが、理論上、「がん細胞の増殖や代謝をも刺激してしまうリスク(懸念)」が否定できないと考えられていたためです。
がん患者様は、腫瘍自体が及ぼす影響や抗がん剤・ホルモン療法などの影響により、血液が固まりやすくなる「深部静脈血栓症(DVT)」のリスクが一般の方よりも高い傾向にあります。血流を一時的に制限するBFRトレーニングが、万が一にも血栓の形成や飛散を誘発する恐れを回避するため、安全第一の観点から「絶対禁忌」として扱われてきました。
しかし近年の腫瘍学(オンコロジー)において、がん治療の最大の障害の一つとして問題視されているのが、がんそのものや抗がん剤・放射線治療に伴う「著しい筋肉量の減少(サルコペニア・がん悪液質)」と「がん関連疲労(CRF)」です。
筋肉量が激減すると、以下のような深刻な悪循環に陥ります。
抗がん剤の副作用が強く出やすくなり、治療の継続が困難になる
手術後の回復が遅れ、術後合併症のリスクが高まる
体力や日常生活動作(ADL)が低下し、生活の質(QOL)が著しく悪化する
この悪循環を断つためには運動療法(筋トレ)が不可欠です。しかし、がん治療中や術後の患者様は体力が著しく低下しており、従来の「高負荷なウェイトトレーニング(最大筋力の70〜80%)」を行うことは関節や心臓への負担が大きすぎてほぼ不可能です。
そこで世界中の研究者が注目したのが、「極めて低い負荷(20〜30%)で、高負荷と同等の効果を得られるBFRトレーニング」だったのです。
2021年〜2023年以降、国際的な医学雑誌やリハビリテーション学会において、がん患者およびサバイバーに対するBFRトレーニングの臨床試験結果やシステマティック・レビュー(総合分析)が相次いで発表され、これまでの常識を覆すエビデンスが集まりつつあります。
腹部がん(食道・胃・大腸・膵臓など)の手術を控えた患者様を対象に、BFRトレーニングと適切な栄養補給を組み合わせた術前プログラムを実施した研究では、以下のような劇的な臨床効果が確認されました。
入院期間の大幅短縮:通常ケア群の平均入院日数が10.2日だったのに対し、BFR群は平均4.7日と「5.5日間」も短縮された。
術後合併症の発症率低下:通常群の69%に何らかの術後合併症が見られたのに対し、BFR群は38%へと大幅に減少した。
歩行能力・筋量の増加:短期間の介入にもかかわらず、6分間歩行距離や全身の除脂肪体重(筋肉量)が有意に増加した。
現在、早期乳がん患者などを対象に、抗がん剤(タキサン系など)の副作用である「化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)」や激しい倦怠感を予防するため、BFRトレーニングを併用する臨床試験(PRESIONAプログラムなど)が進められています。
ここで重要な考え方が生まれています。
「強力な殺細胞性抗がん剤を使っている環境下では、がん細胞の増殖自体が極めて強力に抑えられている。そのため、BFRによるがん細胞増殖の理論的リスクよりも、BFRによって筋力や神経機能を守り、抗がん剤治療を最後までやり遂げられるメリット(ベネフィット)の方が圧倒的に上回る」という医学的判断です。
これら最新の科学的知見を踏まえ、私たちBFRトレーナーは「がん患者様に対するアプローチ」をどのように捉え直すべきなのでしょうか?
新しい時代におけるトレーナーの立ち位置は、「一律にNGと突っぱねる」ことではなく、「リスクとベネフィットを科学的に評価し、適切な医療連携のもとで安全に活用する」という方向性へと進化しています。
【従来の考え方】
「がん患者=BFRは絶対にダメ(禁忌)」
↓
【これからの新しい考え方】
「一律禁止ではなく、リスクとベネフィットを正しく評価する」
主治医の許可 + 厳格な適正圧管理 + 体調のモニタリング
= 安全かつ画期的な「回復支援ツール」として機能する
主治医との連携・同意(メディカルチェック)
自己判断で開始することは厳禁です。がんの種類、進行度(ステージ)、骨転移の有無、血栓症リスクについて主治医の確認と許可を得ることが大前提となります。
厳密な「個別適正圧(AOP)」の設定
血流を過剰に締め付けるのではなく、専用の測定器を用いて個人に合わせた安全な「適正圧(Arterial Occlusion Pressure)」をミリ単位で設定して行います。
「無理のない超低負荷」からのプログラミング
自重またはごく軽い負荷(20% 1RM程度)から開始し、患者様のその日の体調、疲労度、血液データなどに合わせた柔軟なプログラミングを行います。
身体的変化・サインの観察
トレーニング中のしびれや違和感、浮腫(むくみ)の発生がないかを絶えず観察し、安全を最優先に進行します。
かつては「運動は控え、静養すべき」とされていたがん医療の現場は今、「体力を維持するためにいかに安全に運動するか」という時代に完全にシフトしています。
そして、その中で「重い負荷を持てない方にも、安全に確かな効果をもたらすBFRトレーニング」は、患者様の命と生活の質(QOL)を守るための強力な武器になり得ることが、最新の医学研究によって証明され始めています。
従来の「禁止原則」という知識だけで止まるのではなく、最新の生理学・エビデンスを学び続けること。そして、医療従事者と連携しながら目の前のお客様に最適なソリューションを提供できること。それこそが、これからの時代に最も求められるプロフェッショナルなBFRトレーナーの姿です。
BFRトレーナーズ協会では、単なるトレーニング手法だけでなく、最新の解剖学・生理学・リスク管理に基づいた科学的な指導法をマスターできる資格取得プログラムを提供しています。
科学的根拠に基づいた指導で他店と圧倒的な差別化を図りたい方
高齢者や疾患を抱える方にも安全に効果を出せる指導力を身につけたい方
医療やリハビリの現場でも通用する本物の知識を得たい方
時代の変化とともに進化する「BFRトレーニング」の第一線で、多くの方の健康と人生を支えるトレーナーを目指してみませんか?
トレーニングに関する主要な学術論文および研究エビデンスの一覧です。
【システマティック・レビュー論文(2023年)】
論文名: Blood Flow Restriction in Oncological Patients: Advantages and Safety Considerations
掲載誌: Healthcare (MDPI), 2023年7月
概要: 2023年2月までに発表された「がん患者およびがんサバイバーに対するBFRトレーニング」に関する各種データベースの研究を総合的に検索・分析したシステマティック・レビュー。がん患者に対するBFRの介入が、筋力低下の防護、筋量増加、QOL(生活の質)改善、術後の早期回復、さらには入院期間の短縮や術後合併症率の低減に寄与し、適切な管理下であれば安全で効果的な選択肢となり得ることを結論づけています。
【腹部がん患者の術後回復・入院日数短縮に関する研究】
研究内容: 消化器系がん(食道、胃、大腸、膵臓など)の手術を控えた患者に対し、手術前にBFRトレーニングと栄養介入を組み合わせたプログラムを実施。
主要データ:
入院期間の短縮: 通常のケア群(平均10.2日)に対し、BFR群は平均4.7日と約5.5日間の入院期間短縮を実証。
術後合併症の低減: 何らかの術後合併症が発生した割合が、通常群の69%からBFR群では38%へ減少。
術後の活動性向上: 手術後5日目の歩行歩数がBFR群で58%多く、消費カロリーも91%高かった。
【PRESIONAプロジェクト(乳がん抗がん剤副作用の予防研究・2022年)】
論文名: Prevention of Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy With PRESIONA, a Therapeutic Exercise and Blood Flow Restriction Program: A Randomized Controlled Study Protocol
掲載誌: Physical Therapy (Oxford University Press), 2022年
概要: 乳がん患者が抗がん剤(タキサン系等)治療を受ける際に発生する「化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)」や激しい倦怠感・筋力低下を防ぐため、抗がん剤投与期間中にBFRを取り入れた理学療法プログラムを実施するランダム化比較試験(RCT)プロトコル。化学療法中の身体機能維持と抗がん剤治療の完遂率向上を目的としています。
【がん悪液質を伴う進行がん患者へのBFR介入事例】
論文名: Effects of Low-Load Blood Flow Restriction Training on Body Composition and Strength in Cancer Cachexia: A Case Study
掲載誌: Medicine & Science in Sports & Exercise 等
概要: 著しい体重減少や筋肉減退を伴う進行がん(悪液質状態)の患者に対し、週2回の低負荷BFRトレーニングを12週間導入。高負荷な筋トレが不可能な病状においても、副作用や有害事象を起こすことなく、筋力や除脂肪体重(筋肉量)を10〜55%向上させることが確認された臨床報告。
BFRトレーナーズ協会をはじめ、従来の安全ガイドラインが「がん患者へのBFR禁止」を掲げていた根拠となる生理学・医学的資料です。
静脈血栓塞栓症(VTE/DVT)リスクに関して
ガイドライン例: American Society of Clinical Oncology (ASCO) Clinical Practice Guideline Update on Venous Thromboembolism in Patients With Cancer
内容: がん患者は腫瘍細胞の凝固促進物質の分泌や抗がん剤の影響により、深部静脈血栓症(DVT)を発症するリスクが健常者の数倍高いため、血管を圧迫・脱血させる手技への強い警戒が求められてきました。
タンパク質合成シグナル(mTORC1)に関して
内容: BFR運動によって強く活性化するmTORC1経路(筋肥大シグナル)が、腫瘍細胞の増殖経路と一部共通しているため、細胞レベルでの安全性が確立されるまでは原則禁忌とされてきた理論的背景です。
BFRトレーニング

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BFRトレーナーズ協会は、安全で的確なトレーニングの指導を行い、正しい知識と技術を持ったトレーナーを育成し、より多くの人たちにその効果を実感してもらえるようBFRトレーニングの普及を目指します。
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