コラム
2025/10/03

プロアスリートから週末にスポーツを楽しむ人まで、スポーツ愛好家にとって、怪我は避けて通れない大きな壁です。特に、筋肉や腱の損傷は、長期にわたるリハビリテーションを必要とし、競技への復帰を困難にさせます。しかし近年、その常識を覆す可能性を秘めたトレーニング方法として、BFR(Blood Flow Restriction:血流制限)トレーニングが注目を集めています。
このコラムでは、BFRトレーニングがなぜ怪我からの復帰に効果的なのか、そしてどのようにしてパフォーマンス向上に繋がるのかを、科学的根拠に基づきながら、わかりやすく解説していきます。
BFRトレーニングは、専用のバンドやカフを腕や脚の付け根に巻き、血流を適度に制限した状態で行うトレーニングです。一般的な筋力トレーニングが、高重量を扱うことで筋肉に強い刺激を与えるのに対し、BFRトレーニングは、最大挙上重量(1RM)の20〜30%という非常に軽い負荷で、筋肥大や筋力向上効果を得られるのが最大の特徴です。
なぜ、軽い負荷で効果が出るのでしょうか?
血流を制限すると、筋肉内の酸素が不足し、通常よりも早く疲労物質(乳酸など)が蓄積します。この状態は、高負荷トレーニングで追い込んだ時と似た環境を筋肉に作り出します。脳は、この「危機的状況」を察知し、筋肉の成長を促すための様々な信号を送ります。この一連の反応が、BFRトレーニングが低負荷でも効果を発揮するメカニズムの核心です。
怪我をした際、従来のRICE(Rest:安静、Ice:冷却、Compression:圧迫、Elevation:挙上)という応急処置が一般的でした。しかし、安静期間が長引くと、筋力や筋肉量が急激に低下し、いわゆる「廃用性萎縮」を引き起こします。これにより、怪我の治癒が遅れたり、復帰後の再発リスクが高まることも少なくありません。
BFRトレーニングは、この問題を解決する画期的なアプローチを提供します。
靭帯や腱の損傷、関節の炎症などがある場合、患部に強い負荷をかけることはできません。BFRトレーニングは、軽い負荷で十分な効果が得られるため、患部へのストレスを最小限に抑えながら、筋力の維持・向上を図ることができます。特に、手術後の早期リハビリテーションにおいて、その優位性は顕著です。患部の治癒を妨げることなく、周囲の筋肉を活性化し、早期の機能回復を促します。
BFRトレーニングは、高負荷トレーニングと同様に、成長ホルモン(Human Growth Hormone: HGH)の分泌を著しく促進することがわかっています。HGHは、筋肉や骨の成長を促すだけでなく、コラーゲンの合成を促進する働きがあります。コラーゲンは、腱や靭帯の主成分であるため、HGHの増加は、損傷した組織の修復と質の向上を加速させる上で非常に重要です。
血流を制限し、再び解放するサイクル(再灌流)は、血管内皮機能を改善し、血行を促進します。これにより、筋肉や組織への酸素や栄養素の供給が円滑になり、炎症の軽減や老廃物の排出がスムーズに行われ、回復プロセスが加速します。
BFRトレーニングの恩恵は、リハビリテーションに留まりません。アスリートが自身のパフォーマンスをさらに高めるためにも、非常に有効な手段となり得ます。
BFRトレーニングは、血流を制限することで、酸素供給が限られた環境を作り出します。これにより、普段は主に酸素を使って働く「遅筋線維」が、酸素が少ない状態でも活動を維持しようとします。これは、持久力を司る遅筋線維を鍛える上で非常に効果的です。マラソンやトライアスロンといった持久系スポーツのアスリートにとって、スタミナを向上させるための新しい武器となり得ます。
BFRトレーニングは、軽い負荷で行うにもかかわらず、高負荷トレーニングと同様に「速筋線維」を効率的に動員します。速筋線維は、瞬発力やパワーを生み出す筋肉です。軽い負荷でも、速筋線維が働くことで、筋肉は肥大し、筋力が向上します。これにより、野球の投球やジャンプ、短距離走など、爆発的なパワーが求められるスポーツでのパフォーマンス向上に繋がります。
BFRトレーニングは、トレーニングの「質」を高めます。例えば、シーズン中に高重量のトレーニングを続けることは、身体に大きな負担をかけ、怪我のリスクを高めます。BFRトレーニングを組み合わせることで、疲労を最小限に抑えながら筋力維持・向上を図ることができ、コンディショニング調整を容易にします。
BFRトレーニングは非常に有効な方法ですが、その特性を理解し、正しく行うことが何よりも重要です。
BFRトレーニングは、血流を制限するという特殊な方法です。自己流で行うと、神経や血管を損傷するリスクがあります。BFRトレーナーズ協会の認定を受けたトレーナーは、適切なバンドの巻き方、圧力、トレーニング内容を個々の状態に合わせて調整する専門知識を持っています。安全かつ最大の効果を得るためにも、必ず専門家の指導を仰ぎましょう。
特に、怪我のリハビリテーションとしてBFRトレーニングを導入する場合、医師や理学療法士との連携が不可欠です。怪我の治癒状況や、身体のコンディションを正確に把握した上で、最適なトレーニング計画を立てる必要があります。
BFRトレーニングは、低負荷での効果的な筋力向上、成長ホルモンの分泌促進、そして血行改善といった多岐にわたるメリットを持っています。これらの特性は、怪我のリハビリテーションにおいて、腱や関節に過度な負担をかけずに、筋力の回復と組織の修復を促すという点で、非常に画期的なアプローチを提供します。
BFRトレーニングは、単なる筋トレ方法ではなく、身体の回復とパフォーマンスを最適化するための「科学的なツール」です。BFRトレーナーズ協会は、この革新的なトレーニング方法を安全に、そして効果的に普及させることを使命としています。怪我からの早期復帰を目指す方、あるいは自身の限界を突破したいと考えているアスリートの方、ぜひ一度、BFRトレーナーズ協会の門を叩いてみてください。新しい可能性が、あなたを待っています。
BFRトレーニングの腱の修復、リハビリテーション、およびスポーツパフォーマンスへの応用に関する研究は多数発表されています。以下に、その一部を紹介します。
1. 腱の修復とリハビリテーションの促進に関する研究例
タイトル(英文): Effects of Blood Flow Restriction Training on Muscle Atrophy and Strength Loss in Musculoskeletal Rehabilitation: A Systematic Review and Meta-Analysis.
著者: Hughes, L., Paton, B., Rosenblatt, B., Gissane, C., & Patterson, S. D.
掲載雑誌: Clinical Physiology and Functional Imaging, 2017.
概要: このレビューとメタアナリシスは、BFRトレーニングが、リハビリテーション中の筋萎縮(筋肉量の低下)と筋力低下の予防・回復に有効であることを示しています。特に、手術後や不動期間中の筋力維持に、低負荷のBFRトレーニングが役立つ可能性を裏付けています。
2. 成長ホルモン(HGH)の分泌とコラーゲン合成への影響に関する研究例
タイトル(英文): Effects of resistance exercise with and without vascular occlusion on serum IGF-1 and HGF.
著者: Takano, H., Morita, T., Iida, H., Peake, J. M., Murakami, K., Shimomura, Y., ... & Abe, T.
掲載雑誌: European Journal of Applied Physiology, 2005.
概要: BFRトレーニング(血管閉塞)を伴うレジスタンス運動が、血清中の成長ホルモン(GH)およびインスリン様成長因子-1(IGF-1)の濃度を有意に高めることを示しています。これらのホルモンは、腱の主成分であるコラーゲンの合成を含め、組織の修復と再生に不可欠です。
3. スポーツパフォーマンス向上に関するレビュー論文の例
タイトル(英文): Blood Flow Restriction Training: A Brief Guide for the Practicing Clinician.
著者: Scott, B. R., Loenneke, J. P., Guerra, G. F., & Ang, B. M.
掲載雑誌: Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy (JOSPT), 2019.
概要: 臨床家向けにBFRトレーニングの理論的根拠、安全性、および臨床的応用を簡潔にまとめたガイドラインです。スポーツ選手のパフォーマンス向上、筋力・筋肥大の誘導、そして怪我後の早期リハビリにおけるBFRトレーニングの有用性を広く解説しています。
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通常のトレーニングには1RM(1回持ち上げることが限界の重さ)の60%以上の重さを必要としていますが、BFRトレーニングでは1RMの20%程度の重さで効果を得るとができます。
BFRトレーナーズ協会は、安全で的確なトレーニングの指導を行い、正しい知識と技術を持ったトレーナーを育成し、より多くの人たちにその効果を実感してもらえるようBFRトレーニングの普及を目指します。
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