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BFRの新たな可能性:パーキンソン病患者の「むずむず脚症候群(RLS)」

BFRの新たな可能性:パーキンソン病患者の「むずむず脚症候群(RLS)」

2025/10/19

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BFRの新たな可能性:パーキンソン病患者の「むずむず脚症候群(RLS)」

BFRの新たな可能性:パーキンソン病患者の「むずむず脚症候群(RLS)」はなぜ改善したのか?

BFRトレーナーズ協会の皆様、日々の指導、誠にお疲れ様です。

私たちBFRトレーナーは、BFRトレーニングが低負荷・短時間で高負荷トレーニングに匹敵する筋肥大や筋力増強効果をもたらすことを深く理解し、多くのアスリートやリハビリテーションを必要とする方々にその恩恵を提供してきました。

しかし近年、BFRトレーニングの可能性は、私たちが主戦場としてきた筋骨格系の分野を超え、「神経疾患」の領域へと広がり始めています。特に注目されているのが、進行性の神経変性疾患である「パーキンソン病(PD)」のリハビリテーションへの応用です。

パーキンソン病といえば、「手足のふるえ(振戦)」や「筋肉のこわばり(固縮)」、「動作の鈍さ(寡動)」といった運動症状が広く知られています。しかし、患者様ご本人を最も苦しめているのは、しばしば「非運動症状」であると言われます。その代表格が、睡眠障害を引き起こす「むずむず脚症候群(RLS:Restless Legs Syndrome)」です。

そして今、BFRトレーニングがこの深刻なRLSの症状を改善させたという、非常に興味深い研究報告がなされています。

本コラムでは、世界中から集められた論文に基づき、BFRトレーニングがパーキンソン病患者のRLSにどのように作用したのか、そして、その背景にある生理学的メカニズムは一体何なのかを深く考察していきます。これは、BFRトレーニングの新たな地平を切り開く、重要な知見となるはずです。

第1章: パーキンソン病と「むずむず脚症候群(RLS)」の深刻な関係

コラムの本題に入る前に、パーキンソン病(PD)とRLSの関係性について整理します。

PDは、脳内の「ドーパミン」という神経伝達物質を産生する神経細胞が減少することで発症します。ドーパミンは運動の調節に不可欠なため、その欠乏が運動症状を引き起こします。

一方、むずむず脚症候群(RLS)は、主に夕方から夜間、安静にしている時(特に就寝時)に、脚(時には腕)に「むずむずする」「虫が這うような」「火照る」といった言葉にしがたい不快感が生じ、じっとしていられなくなる感覚障害です。脚を動かすと不快感は一時的に和らぎますが、再び安静にすると再発するため、深刻な入眠障害や中途覚醒を引き起こします。

このRLSの原因は完全には解明されていませんが、PDと同じく「ドーパミン機能の不全」や「鉄分の不足」が関与していると考えられています。そのため、PD患者は一般人口よりもRLSを合併する割合が高いことが知られています(研究により差はありますが、PD患者の3%~22%がRLSを併発しているとの報告もあります)。

PD患者様にとって、日中は運動症状と闘い、夜はRLSによる不眠と闘うという二重苦は、QOL(生活の質)を著しく低下させる深刻な問題です。

第2章: 研究紹介① BFRウォーキングによるRLSの改善

この困難なRLSに対し、BFRトレーニングが光明をもたらす可能性を示したのが、2018年にDourisらが発表した症例報告(ケーススタディ)です。

この研究は、パーキンソン病のリハビリテーション分野において、BFRトレーニングの機能改善効果と安全性を調査した最初期の論文の一つです。

  • 対象者: 1名(65歳男性)。パーキンソン病と診断されていましたが、趣味でボクシングを行うなど、非常に活動的な方でした。

  • 研究デザイン: 介入効果を厳密に評価するため、「A-B-Aデザイン」が採用されました。

    A期(4週間): ベースライン期(BFRトレーニングなし)

    B期(6週間): 介入期(BFRトレーニングあり)

    A期(4週間): 再ベースライン期(BFRトレーニング中止)

  • 介入内容(B期): 週3回、両大腿部の付け根にBFRトレーニングベルトを装着し、トレッドミルでのウォーキングを実施。

    圧力: 120mmHgから開始し、被験者の忍容性(耐えられるか)を見ながら最大160mmHgまで徐々に増加させました。

    運動: 2分間の歩行(傾斜0%、速度50m/min)と1分間の休息(ベルトは装着したまま)を5セット繰り返しました。

  • 結果: まず、運動機能において、「Timed Up and Go (TUG)」や「Sit-to-Stand(椅子立ち上がり)」などのテストで明らかな改善が見られました。

    そして、特筆すべきはRLS(むずむず脚症候群)への影響です。この被験者はRLSの症状も抱えていましたが、BFRトレーニングを導入した介入期(B期)において、RLSの症状が着実に改善していったのです。

    さらに驚くべきは、その後の経過です。BFRトレーニングを中止した第2のベースライン期(A期)に入ると、改善していたRLSの症状が、再び悪化する傾向がデータで示されました。

これは、BFRトレーニングの実施が、RLSの症状軽減に直接的、かつ即時的に関与していた可能性を強く示唆する結果です。研究チームは「BFRトレーニングがRLS症状を軽減させ、安全に利用できる」と結論付けています。

第3章: 研究紹介② BFR抵抗トレーニングによるRLSの改善

Dourisらの報告はウォーキング(有酸素運動)でしたが、「BFR+抵抗トレーニング」でも同様の効果が見られるのでしょうか。

2022年にKARGらによって発表された症例報告が、その問いに答えてくれます。

  • 対象者: 1名(活動的なパーキンソン病患者)。

  • 研究デザイン: こちらも同様に「A-B-Aデザイン」(各フェーズは6週間)が採用されました。

  • 介入内容(B期): 介入期(6週目~12週目)に、BFRを伴う低強度抵抗トレーニング(LIRT)を実施しました。

    運動: レッグプレス、レッグカール、レッグエクステンション、カーフプレスといった4種類の下肢筋力トレーニングを行いました。

  • 評価方法: RLSの重症度を客観的に評価するため、国際的に使用されている「RLS Questionnaire(むずむず脚症候群質問票)」が用いられました。

  • 結果: 6週間のBFR抵抗トレーニングの結果、この被験者のRLSの重症度は、「中等度(Moderate)」から「軽度(Mild)」へと有意に改善しました。もちろん、下肢の筋力(レッグプレスなど)も顕著に向上しました。

この研究は、有酸素運動だけでなく、BFRを用いた抵抗トレーニングもまた、PD患者のRLS症状を改善しうることを示しました。わずか1名の症例報告とはいえ、異なる運動様式で同様の非運動症状(RLS)の改善が確認されたことは、非常に大きな意義を持ちます。

第4章: 【考察】BFRはなぜRLSを改善したのか?

現時点で、BFRがPD患者のRLSを改善するメカニズムを断定することはできません。上記はいずれもN=1(対象者1名)の症例報告であり、科学的根拠としてはまだ序章に過ぎないからです。

しかし、BFRトレーニング特有の生理学的反応から、いくつかの有力な仮説(推論)を立てることは可能です。私たちBFRトレーナーは、この「なぜ?」を考えることが、クライアントへのより良い指導に繋がります。

推論1:強力な「代謝ストレス」と「ホルモン応答」

BFRトレーニングの最大の特徴は、ベルトによって血流を制限することで、筋肉内に乳酸や水素イオンなどの代謝物を意図的に蓄積させることです。この「代謝ストレス」こそが、脳(視床下部など)を強力に刺激し、筋肥大を促す成長ホルモン(GH)などの分泌を促進する鍵です。

RLSやPDは、脳内のドーパミン機能不全が関与しています。BFRによるこの強力な代謝ストレスと、それに続く全身性のホルモン応答(内分泌系の活性化)が、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質のバランスを調整する中枢神経系に、何らかの良い影響を与えた可能性が考えられます。

推論2:末梢循環の劇的な改善と「再灌流」効果

RLSの不快感は、下肢の微小な循環不全(血流不足)と関連があるとも言われています。特に夜間、安静時に血流が滞ることで、神経末端に老廃物が蓄積したり、酸素が不足したりして異常な感覚信号が発生する、という仮説です。

BFRトレーニングは、「駆血(血流制限)」と「再灌流(ベルト解放時の血流再開)」というプロセスを強制的に繰り返します。特にトレーニング後のベルト解放時に起こる「再灌流」は、通常よりも強い血流を生み出します。このプロセスが、普段は使われていない下肢の毛細血管(いわゆるゴースト血管)を隅々まで押し広げ、末梢の血流を根本的に改善した可能性があります。

血流が改善すれば、神経末端まで新鮮な酸素と栄養が供給され、異常な感覚信号の発生自体が抑制されたのではないか、と推論できます。

推論3:自律神経系の調整と「睡眠の質」の向上

BFRトレーニングは、低負荷の運動でありながら、高負荷運動に匹敵する「適度な疲労感」を生み出します。この心地よい疲労感が、日中の過度な交感神経(興奮モード)の活動を鎮静化させ、夜間に向けてリラックスモードである副交感神経を優位に切り替えやすくした可能性があります。

そもそも、運動療法自体がPD患者の睡眠の質を改善するという報告は多数存在します。BFRトレーニングによってもたらされた「適度な疲労」と「末梢の温感(血流改善による)」が、深い入眠を促し、睡眠の質そのものが向上した結果、副次的にRLSの症状も感じにくくなった、という相乗効果も十分に考えられます。

第5章: BFRトレーナーへの提言と今後の展望

今回ご紹介した研究は、BFRトレーニングが単なる「筋トレの効率化ツール」ではなく、パーキンソン病のような難治性の神経疾患における「非運動症状(QOL)」の改善にも貢献できる、という壮大な可能性を示しています。

私たちBFRトレーナーは、この可能性の最前線に立っています。PD患者様や、原因不明のRLSに悩むクライアント様と接する機会が今後増えるかもしれません。

その際、私たちが心に留めるべきは、「安全性の絶対的優先」です。 神経疾患を持つ方は、自律神経の調節不全(起立性低血圧など)を伴う場合があります。必ず主治医の許可を得た上で、通常よりも低圧から慎重に開始し、血圧や体調の変化に細心の注意を払う必要があります。

これらの研究はN=1の症例報告であり、この結果がすべてのPD患者に当てはまるわけではありません。しかし、高負荷の運動が困難であり、転倒リスクも高いPD患者様にとって、低負荷・短時間で安全に下肢の筋力と機能を維持・向上できるBFRトレーニングは、理想的なリハビリテーション手法の一つとなり得ます。

BFRトレーニングが筋力や運動機能だけでなく、睡眠の質やRLSといった「非運動症状」まで改善する。この仮説が今後の大規模な研究で証明されれば、BFRは神経リハビリの分野で欠かせない存在となるでしょう。

私たちトレーナーが現場で培う安全な指導技術と臨床的な知見が、その未来を築く礎となります。BFRの持つ無限の可能性を信じ、医療と連携しながら、一人でも多くの方のQOL向上に貢献していきましょう。


参照論文リスト

  • Douris, P. C., Cogen, Z. S., Fields, H. T., Hakim, E. A., Jagassar, K. B., Rinsky, T. G., & Douris, K. P. (2018). THE EFFECTS OF BLOOD FLOW RESTRICTION TRAINING ON FUNCTIONAL IMPROVEMENTS IN AN ACTIVE SINGLE SUBJECT WITH PARKINSON DISEASE. International journal of sports physical therapy, 13(2), 247–254.

  • KARG, B. E., BURKEY, A. M., KELLEY, K. K., & LOPRINZI, P. D. (2022). Blood flow restriction resistance training in a recreationally active person with Parkinson's disease. Physiotherapy theory and practice, 38(3), 422–430.

  • Hughes, L., et al. (2020). Blood flow restriction exercise in clinical musculoskeletal rehabilitation: a systematic review and meta-analysis. British journal of sports medicine, 54(17), 1025–1032.

  • Jønsson, T., et al. (2024). Safety and efficacy of blood flow restriction exercise in individuals with neurological disorders: A systematic review. Clinical rehabilitation, 38(4), 464–477.

  • Möller, J. C., et al. (2019). Restless legs syndrome in Parkinson's disease: a 2-year follow-up study. European Journal of Neurology, 26(2), 341-346.

  • Ferri, R., et al. (2016). Exercise and sleep in Parkinson's disease: A review. Sleep Medicine Reviews, 26, 1-8.

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