コラム
2025/09/14

「筋トレ後のご褒美に、つい甘いものを…」
多くのトレーニーが一度は経験するこの欲求。ストイックな食事管理が求められる中、「菓子パンなんてとんでもない」と考えるのが一般的かもしれません。しかし、もし日本の国民食ともいえる「あんパン」が、科学的に見て非常に優れたトレーニングのパートナーとなり得るとしたら、どうでしょうか?
この記事では、単なる精神論や経験則ではなく、栄養学・生理学的な観点から「あんパンと筋肉」の密接な関係を解き明かします。なぜあんパンがトップアスリートにも選ばれるのか、その歴史的背景から最新のスポーツ栄養学に基づいた効果的な摂取方法までを徹底的に解説。あなたのトレーニング効果を次のステージへと引き上げる、「あんパン活用術」の全てをお伝えします。
あんパンがトレーニングの補食として注目されるのには、実は歴史的な裏付けがあります。
その歴史は、文明開化の槌音が響く明治時代に遡ります。1874年(明治7年)、西洋のパンに日本の「あんこ」を融合させた画期的なパンを考案したのが「銀座 木村屋」の創業者、木村安兵衛とその息子、英三郎でした。翌年、明治天皇にあんパンを献上したところ大変気に入られ、宮内省御用達となったことで、あんパンは一気に国民的な食べ物へと飛躍しました。
この「和魂洋才」の精神が生んだあんパンが、スポーツの世界で公式に注目されたのは、それから約100年後のことです。1964年の東京オリンピックを契機にスポーツ栄養学への関心が高まる中、1975年に日本体育協会(現・日本スポーツ協会)が発行した『スポーツマンの食事の取り方ガイドブック』。その中で、アスリートの献立例として「あんパン」が堂々と記載されたのです。これは、あんパンが持つエネルギー補給食としてのポテンシャルが、当時から認められていたことを示す貴重な記録です。
現代においてもその価値は色褪せず、例えば明治大学水泳部の選手たちが補食として日常的にあんパンを取り入れていることは有名な話です。スポーツ選手の栄養補給に詳しい立教大学の杉浦克己特別選任教授も、練習前後のエネルギー補給におけるあんパンの有効性を指摘しています。
単なる懐かしいおやつではない。あんパンは、その誕生から日本の食文化に根差し、アスリートのパフォーマンスを支える「伝統的な機能食」としての側面も持っているのです。
なぜ、あんパンはトレーニングの補食としてこれほどまでに優れているのでしょうか。その秘密は、あんことパン生地が織りなす絶妙な栄養バランスに隠されています。
トレーニングの質を左右するのは、身体を動かすガソリン、すなわち「グリコーゲン」です。あんパンは、このグリコーゲンを補給するための炭水化物の塊であり、その炭水化物の「質」が極めて優秀です。
あんこ(餡): 主成分である砂糖や小豆に含まれる糖質は、消化吸収が速い単糖類や二糖類が中心です。これにより、摂取後比較的速やかに血糖値を上昇させ、トレーニング開始時からエネルギーとして利用されやすい状態を作ります。
パン生地: 主に小麦粉から作られるパン生地の炭水化物は、消化に時間のかかる多糖類(でんぷん)です。こちらはゆっくりと消化・吸収されるため、トレーニング中盤から後半にかけて持続的にエネルギーを供給し続け、パフォーマンスの低下やガス欠を防ぎます。
つまり、あんパンは「速効性」と「持続性」という2種類のエネルギー源を同時に摂取できる、「ハイブリッド型カーボドリンク」ならぬ「ハイブリッド型カーボフード」と言えるのです。
筋トレは、筋肉を意図的に破壊し、それを修復・成長させるプロセスです。この「合成」のスイッチを強力に押してくれるのが、すい臓から分泌されるホルモン「インスリン」です。
インスリンは、血糖値が上昇した際に分泌され、血液中の糖を筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄える働きをします。そして、筋トレにおいて特に重要なのが、以下の2つの作用です。
アンチ・カタボリック作用: 筋肉の分解(カタボリック)を抑制する働き。トレーニング後の身体はエネルギーが枯渇し、筋肉を分解してエネルギーを作り出そうとしますが、インスリンはこの流れを食い止めます。
アナボリック作用: 筋肉の合成(アナボリック)を促進する働き。インスリンは、筋肉細胞へのアミノ酸の取り込みを促し、mTOR(エムトール)と呼ばれるタンパク質合成を司る重要なシグナル伝達系を活性化させます。
あんパンを摂取して意図的に血糖値を上げることは、このインスリンの強力な作用を引き出し、筋肉の分解を抑え、合成を最大化するための極めて合理的な戦略なのです。
あんパンの主役である「あんこ」の原料、小豆の栄養価も見逃せません。
植物性タンパク質: 小豆は豆類であり、100gあたり約8g程度のタンパク質を含みます(製品による)。量は多くありませんが、トレーニングで傷ついた筋線維を修復するための材料となります。
ビタミンB群: 特にビタミンB1は、糖質をエネルギーに変換する際に不可欠な補酵素です。あんパンで摂取した炭水化物を効率よくエネルギーとして使うために重要な役割を果たします。
ミネラル: 筋肉の収縮や神経伝達に関わるカリウムやマグネシウム、血液の材料となる鉄分など、コンディショニングに重要なミネラルを含みます。
サポニン・ポリフェノール: 小豆の皮に含まれるこれらの成分には、強力な抗酸化作用があります。トレーニングによって発生する活性酸素によるダメージを軽減し、回復をサポートする効果が期待できます。
さらに特筆すべきは、脂質が極めて少ない点です。一般的な菓子パン(デニッシュやクリームパンなど)が100gあたり15g〜30gの脂質を含むのに対し、あんパンは5g程度と非常に低脂質。脂質は消化に時間がかかるため、トレーニング前後の素早いエネルギー補給という目的において、この低脂質という特性は大きなメリットとなります。
あんパンのポテンシャルを最大限に引き出すには、「いつ、どのように食べるか」が重要です。目的に応じた最適なタイミングと組み合わせをご紹介します。
目的: 筋グリコーゲンを満タンにし、トレーニング中のエネルギーレベルを最大化する。
摂取のポイント: トレーニングの1〜2時間前に、あんパンを1個摂取します。これにより、あんこの速効性糖質がトレーニング開始時のエネルギーとなり、パン生地の持続性糖質が後半の粘りを支えます。
おすすめの組み合わせ:
ブラックコーヒー: カフェインが集中力を高め、体脂肪の燃焼を促進する効果も期待できます。
オレンジジュース: ビタミンCやクエン酸が疲労回復を助けます。
目的: 枯渇したグリコーゲンの迅速な回復、筋肉分解の抑制、そして筋合成のスイッチオン。
摂取のポイント: トレーニング終了後、筋肉はインスリンへの感受性が非常に高まっており、「グリコーゲン・ウィンドウ」とも呼ばれるこの時間帯は、栄養素の吸収率が劇的に向上します。このタイミングでのあんパン摂取は、インスリンを分泌させ、消耗した筋肉に最速で糖を届けます。
おすすめの組み合わせ:
ホエイプロテインシェイク: 「タンパク質(プロテイン)」と「炭水化物(あんパン)」を同時に摂取することで、筋合成の材料とそれを促すエネルギー(インスリン)を同時に供給できます。これはまさに「和製マッスルゲイナー(体重・筋肉増量サプリ)」と呼ぶにふさわしい、最強の組み合わせです。
Q1. 食べ過ぎはNG?適切な量は?
A1. はい、もちろんです。あんパンはあくまで「補食」です。1個あたり約250〜350kcal、炭水化物は50g前後含まれます。ご自身の1日の総摂取カロリーやPFCバランス(タンパク質・脂質・炭水化物のバランス)を考慮し、トレーニング前後に1個、というのが基本です。日常的なおやつとして無計画に食べるのは避けましょう。
Q2. どんなあんパンでも良いですか?
A2. できるだけシンプルなあんパンを選びましょう。ホイップクリームやバターが入ったもの、揚げてあるもの、デニッシュ生地のものなどは脂質が格段に高くなり、消化吸収を遅らせるだけでなく、余分なカロリー摂取に繋がります。伝統的な「酒種あんぱん」のような、皮が薄く、あんこが主体のものが理想的です。
Q3. おにぎりやバナナとの違いは?
A3. それぞれにメリットがあります。
おにぎり: 主に多糖類で、脂質がほぼゼロ。持続的なエネルギー供給に優れます。
バナナ: カリウムが豊富で、消化が非常に速いのが特徴です。
あんパン: 速効性と持続性の両方を兼ね備えた糖質構成、そして何より「甘さ」による精神的な満足感が大きな違いです。厳しいトレーニング後のご褒美として、モチベーション維持にも繋がります。
Q4. 減量期に食べてもいいですか?
A4. タイミングと量を厳密に管理すれば可能です。減量期こそ、トレーニングの質を落とさないための栄養補給が重要になります。カロリー収支がマイナスになるよう全体で調整した上で、トレーニング前後のエネルギー補給として1個取り入れるのは有効な戦略です。
あんパンと筋肉。一見、結びつかないように思えるこの二つが、実は科学的根拠に基づいた非常に強力なタッグであることがお分かりいただけたでしょうか。
歴史が証明するエネルギー食としての価値
「速効性」と「持続性」を両立する炭水化物構成
インスリンを巧みに操り、筋肉の合成を最大化
小豆由来の豊富な栄養素と、吸収を妨げない低脂質
あんパンは、単なるノスタルジックな菓子パンではありません。先人たちの知恵と、現代のスポーツ栄養学が融合した、トレーニーにとっての「隠れたスーパーフード」なのです。
コンビニやスーパーで手軽に手に入るこの日本の伝統食を、あなたのトレーニング計画に賢く組み込んでみてください。きっとその合理的な効果に、心も身体も満たされるはずです。
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