コラム
2025/02/12

人生100年時代と言われる現代において、健康寿命を延ばし、生活の質を高めることは、高齢者にとって重要なテーマです。しかし、加齢とともに体力は低下し、フレイルやサルコペニアといった状態に陥りやすくなります。
フレイル(虚弱)とは、加齢に伴い、身体機能や認知機能が低下し、健康と要介護状態の中間にある状態を指します。具体的には、筋力低下、倦怠感、歩行速度の低下、意図しない体重減少などがみられます。フレイル状態は、活動性低下、転倒リスクの増加、疾病発症リスクの上昇など、様々な健康問題を引き起こす可能性があります。
一方、サルコペニア(筋萎縮症)とは、加齢に伴う筋肉量と筋力の進行性の低下を指します。筋肉は、運動機能の維持だけでなく、代謝や体温維持、糖代謝など、生命維持にも重要な役割を果たしています。サルコペニアが進行すると、身体機能の低下、代謝異常、生活習慣病のリスク増加、そしてフレイルへと繋がる悪循環に陥る可能性があります。
フレイルとサルコペニアは、高齢期の健康を脅かす大きな要因であり、その対策は喫緊の課題と言えるでしょう。効果的な対策の一つとして、近年注目を集めているのが BFRトレーニング(血流制限トレーニング) です。
BFRトレーニングは、BFRベルトで腕や脚の付け根を適切に圧迫し、血流を制限した状態で行うトレーニング方法です。血流を制限することで、軽い負荷の運動でも筋肉内は酸素不足状態となり、無酸素性代謝が促進されます。その結果、高負荷トレーニングと同様の成長ホルモンや筋肥大刺激物質の分泌が促され、低い負荷でも効果的な筋力向上効果が得られると考えられています。
世界中で行われた研究論文の調査から、血流制限トレーニングが高齢者のフレイルとサルコペニア対策に非常に有効であり、安全なトレーニング方法であることが強く示唆されています。
低負荷で筋力・筋量向上: フレイルやサルコペニア状態にある高齢者は、体力や身体機能が低下しているため、従来の高負荷筋力トレーニングは身体的にも精神的にも負担が大きすぎることがあります。BFRトレーニングは、軽い負荷でも十分な筋力向上効果と筋肥大効果が期待できるため (Effect of Blood Flow Restriction on Gait and Mobility in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis - MDPI, Effects of Low-Load Blood Flow Restriction Resistance Training on Muscle Strength and Hypertrophy Compared with Traditional Resistance Training in Healthy Adults Older Than 60 Years: Systematic Review and Meta-Analysis - MDPI, Comparison of blood flow restriction training and conventional resistance training for the improvement of sarcopenia in the older adults: A systematic review and meta-analysis - PMC)、体力に自信のない高齢者や運動初心者でも無理なく始めることができます。筋肉量の増加は、基礎代謝の向上にも繋がり、活動的な生活を送るための土台となります。
歩行能力・移動能力の改善: フレイルやサルコペニアが進行すると、歩行速度の低下やバランス能力の低下が顕著になります。血流制限トレーニングは、歩行速度、歩幅、バランス能力、立ち上がり動作など、日常生活に不可欠な身体能力の改善に効果を発揮します (Effect of Blood Flow Restriction on Gait and Mobility in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis - MDPI, A call to action for blood flow restriction training in older adults with or susceptible to sarcopenia: A systematic review and meta-analysis - Frontiers, A call to action for blood flow restriction training in older adults with or susceptible to sarcopenia: A systematic review and meta-analysis - PubMed)。これにより、転倒リスクを低減し、外出や社会活動への参加を促し、閉じこもり予防にも繋がります。
関節への負担が少ない: 高齢者の中には、関節痛や関節変形に苦しんでいる方も少なくありません。高負荷トレーニングは、関節への負担が大きく、痛み悪化や症状悪化を招く可能性があります。血流制限トレーニングは、軽い負荷で行えるため、関節への負担を最小限に抑えながら、筋力強化が可能です。関節に不安がある高齢者でも安心して取り組むことができます。
短時間で効果を実感: 血流制限トレーニングは、従来の筋力トレーニングと比較して、短時間で効果を実感しやすいというメリットがあります。研究によると、週2-3回の短時間セッション (1回あたり15-30分程度) でも、筋力向上や身体機能改善の効果が確認されています。時間制約のある高齢者でも、生活に取り入れやすく、継続しやすいトレーニング方法と言えるでしょう。
健康寿命の延伸: 血流制限トレーニングは、筋力や身体能力の向上に加え、血管内皮機能の改善、血圧の低下、骨密度の増加など、全身的な健康促進効果も期待されています (Effect of blood flow restriction training on health promotion in middle-aged and elderly women: a systematic review and meta-analysis - Frontiers)。これらの効果は、生活習慣病の予防や活動的な老後生活の実現、ひいては健康寿命の延伸に貢献する可能性があります。
運動頻度: 週2-3回、トレーニングの間には休息日を設ける (筋肉の修復と成長のため)
運動強度: 最大筋力の25-40%程度の軽い負荷 (自重または軽いダンベル、チューブなどを使用)
運動時間: 準備運動・整理運動(クールダウン)を含めて30-45分程度
セット数と回数: 各運動を15-25回繰り返し、3-4セット行う。セット間の休憩は30-60秒
血流制限ベルト装着部位: 上肢 (腕の付け根)、下肢 (太ももの付け根)
準備運動 (各5分程度):
軽い有酸素運動: ウォーキング、軽いステップ運動、ラジオ体操など (心拍数を徐々に上げ、体を温める)
ストレッチ: 動的ストレッチ (関節可動域を広げ、筋肉を柔軟にする) 腕回し、肩回し、股関節回し、膝回し、足首回しなど
トレーニング (各運動2-3セット):
椅子スクワット: 椅子に浅く腰掛け、膝が90度になる程度まで腰を下ろし、立ち上がる動作を繰り返します。難しい場合は、椅子の高さを高くする、手すりにつかまるなどして調整。血流制限ベルトを太ももに装着。
カーフレイズ (座位または立位): 椅子に座った状態または立った状態で、壁や椅子に手をつき、かかとを上げ下げします。椅子座位の場合は負荷を低減、立位の場合は負荷を増加。血流制限ベルトを太ももまたは足首に装着 (太もも装着の方が負荷が高い)。
アームカール (ダンベルまたはチューブ): 椅子に座った状態または立位で、軽いダンベルまたはチューブを持ち、肘を曲げ伸ばしします。反動を使わず、ゆっくりとした動作で行う。血流制限ベルトを腕の付け根に装着。
ショルダープレス (チューブ): チューブを椅子の下または足で踏み、両手でチューブを持ち、腕を垂直に上げ下げします。肩関節の可動域に合わせて無理のない範囲で行う。血流制限ベルトを腕の付け根に装着。
レッグエクステンション (椅子座位): 椅子に座り、片足ずつ膝を伸ばします。膝を完全に伸ばさなくても、可能な範囲で構いません。負荷を上げる場合は、足首に軽い重りを装着。BFRベルトを太ももに装着。
整理運動 (各5分程度):
静的ストレッチ: トレーニングで使った筋肉を中心に、ゆっくりと筋肉を伸ばす (クールダウンと筋肉の柔軟性回復) 大腿四頭筋ストレッチ、ハムストリングストレッチ、カーフストレッチ、上腕二頭筋ストレッチ、三角筋ストレッチなど
軽い呼吸運動: 深呼吸または横隔膜呼吸 (心拍数を落ち着かせ、リラックス効果を高める)
トレーニングメニューの個別化:
上記のメニューはあくまで一例です。高齢者の体力レベル、既往歴の有無、運動経験などを考慮し、運動の種類、強度、回数、セット数、休憩時間などを個別に調整する必要があります。
最初は、各運動1セットから始め、徐々にセット数を増やしていくなど、段階的に進めていくことが推奨されます。
運動中に疲労を感じたら、無理せず休憩または中止し、体調に合わせてトレーニング強度を調整してください。
BFRトレーナーの指導のもとで行ってください。
BFRトレーニング実施時の注意点:
血流制限ベルトの適切な装着: ベルトの締め付け圧は、個人別に調整が必要です。専門家の指導を受け、適切な圧力で装着するようにしてください。締め付けが強すぎると血行障害や神経圧迫のリスクがあります。
運動中の体調管理: トレーニング中は、体調の変化に注意し、痛み、痺れ、めまい、吐き気、過度な疲労感など、異常を感じたら、すぐにトレーニングを中止し、専門家に相談してください。
持病との関係: 高血圧、心血管疾患、糖尿病、深部静脈血栓症などの持病がある方は、BFRトレーニングを行う前に必ず医師に相談し、許可を得てください。病状によっては、BFRトレーニングが適さない場合があります。
水分補給: トレーニング前後、トレーニング中にもこまめな水分補給を心がけましょう。脱水症状は、体調不良に繋がる可能性があります。
トレーニング環境: 安全なトレーニング環境を確保しましょう。滑りにくい床、明るい照明、緊急時の連絡手段の確保など、安全にトレーニングを行うための環境整備が重要です。
血流制限トレーニングは、フレイルやサルコペニアに悩む高齢者にとって、筋力向上、身体機能改善、健康寿命の延伸など、多岐にわたる効果が期待できる効果的なトレーニング方法です。低い負荷で安全に取り組めるため、体力に不安がある方や運動初心者でも安心して始められます。フレイル・サルコペニア予防、そして活動的な老後生活のために、血流制限トレーニングを日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
Effect of Blood Flow Restriction on Gait and Mobility in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis - MDPI: https://www.mdpi.com/1660-4601/21/10/1325
Effects of Low-Load Blood Flow Restriction Resistance Training on Muscle Strength and Hypertrophy Compared with Traditional Resistance Training in Healthy Adults Older Than 60 Years: Systematic Review and Meta-Analysis - MDPI: https://www.mdpi.com/2077-0383/11/24/7389
A call to action for blood flow restriction training in older adults with or susceptible to sarcopenia: A systematic review and meta-analysis - Frontiers: https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2022.924614/full
A call to action for blood flow restriction training in older adults with or susceptible to sarcopenia: A systematic review and meta-analysis - PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36045750/
Comparison of blood flow restriction training and conventional resistance training for the improvement of sarcopenia in the older adults: A systematic review and meta-analysis - PMC: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/PMC10831374/
Effect of blood flow restriction training on health promotion in middle-aged and elderly women: a systematic review and meta-analysis - Frontiers: https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2024.1392483/full
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通常のトレーニングには1RM(1回持ち上げることが限界の重さ)の60%以上の重さを必要としていますが、BFRトレーニングでは1RMの20%程度の重さで効果を得るとができます。
BFRトレーナーズ協会は、安全で的確なトレーニングの指導を行い、正しい知識と技術を持ったトレーナーを育成し、より多くの人たちにその効果を実感してもらえるようBFRトレーニングの普及を目指します。
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