コラム
2025/04/13

〜骨を守る新しいアプローチ〜
高齢化が進む現代において、「骨粗しょう症」は誰にとっても身近な健康課題となっています。特に閉経後の女性や高齢者に多く見られ、転倒による骨折はQOL(生活の質)の大きな低下を引き起こします。骨粗しょう症の予防・改善には適切な食事、日光浴、そして運動が有効とされていますが、加齢や疾患の影響で高強度な運動が難しい人も少なくありません。
そこで近年注目されているのが、「BFR(Blood Flow Restriction:血流制限)トレーニング」です。低負荷でも高負荷に近い効果を得られるこの画期的なトレーニング方法は、筋肉だけでなく「骨」にも良い影響を与える可能性があることが、海外の最新研究によって示唆されています。
骨粗しょう症は、骨の密度と質が低下し、骨がもろくなる疾患です。加齢、ホルモンバランスの変化(特にエストロゲンの減少)、カルシウム不足、運動不足などが主な原因です。
骨粗しょう症が進行すると、「骨折リスクが高まる」だけでは済まされません。重度の場合、ちょっとした咳やくしゃみ、長時間同じ姿勢で座っているだけでも“圧迫骨折”が起きることがあります。 背中が曲がってしまう「円背(えんぱい)」や慢性的な痛み、身長の低下にもつながり、日常生活に深刻な影響を及ぼします。
そのため、できるだけ早い段階からの「予防」と「骨の強化」が非常に重要になります。
骨は負荷を受けることで強くなるという「ウルフの法則」に基づき、適度な運動が骨密度の維持・向上に効果的とされています。特に筋力トレーニングやジャンプ運動、負荷のあるウォーキングなどは骨への刺激となり、骨形成を促進します。
しかし、すでに骨がもろくなっている人にとっては、高負荷運動は転倒や骨折のリスクを伴うため、実施が困難な場合も少なくありません。
BFRトレーニングは、専用のベルトや加圧機器で四肢の血流を一時的に制限しながら、軽い負荷の運動を行うトレーニング方法です。低負荷でありながら、筋肥大や筋力向上、成長ホルモンの分泌促進など、高負荷トレーニングに匹敵する効果が得られることがわかっています。
この技術は元々、リハビリ現場や高齢者の運動指導に活用されてきましたが、近年ではアスリートのトレーニングや医療・介護分野でも導入が進んでいます。
最新の研究では、BFRトレーニングが骨代謝にも好影響を与えることが明らかになってきました。
例えば、閉経後の女性を対象にした12週間のBFRトレーニングプログラムでは、骨形成マーカーであるP1NPが有意に増加。筋力やバランスの向上とともに、骨密度維持の可能性が示されました(Yasuda et al., 2020)。
また、2023年のメタアナリシスでは、低強度BFRトレーニングが骨吸収マーカーの減少にも有効であることが報告されています。つまり、骨が壊されるのを防ぎながら、新しく作られる働きも促すという、ダブルの効果が期待できるのです。
子宮や卵巣を摘出する手術(特に卵巣摘出)は、骨粗しょう症の進行に大きな影響を与えることがあります。 卵巣はエストロゲンというホルモンを分泌しており、このホルモンは骨の健康を保つために重要な役割を果たしています。エストロゲンは骨吸収を抑制し、骨形成を促進します。そのため、卵巣を摘出するとエストロゲン分泌が急激に低下し、骨密度が急激に低下することがあります。
閉経後と同様に、エストロゲンの減少により骨粗しょう症が進行しやすくなるため、特に若年層で卵巣摘出を受けた場合は、骨密度を守るための対策が早期に必要です。
この点についても多くの研究が行われており、卵巣摘出後の女性において骨折リスクが増加することが確認されています。特に、手術後数年間は骨密度の低下が早い時期に見られ、その後も骨折のリスクが長期間高い状態が続くことが報告されています(Bauer et al., 2017)。
BFRトレーニングは、軽いダンベルや自体重でも十分な効果を得られるため、骨がもろくなった人でも安全に実践しやすいという利点があります。関節や骨に過度な負担をかけず、座位や仰臥位で行える種目も多く、転倒のリスクを最小限に抑えることができます。
特に「咳で骨折したことがある」「椅子から立ち上がるのが怖い」といった方にとっては、安心して取り組める運動法として大きな価値があります。
ただし、BFRトレーニングは正しい知識と管理のもとで実施することが絶対条件です。圧のかけすぎや不適切な使用は、血流障害などのリスクを伴うため、専門の知識を持つトレーナーによる指導が不可欠です。
BFRトレーナーズ協会では、安全な使用法や個別対応の技術習得を目的とした資格制度・講習会を設けており、トレーニングを通して骨粗しょう症予防・改善に貢献できる人材育成を行っています。
骨粗しょう症は「骨が折れてから気づく」ことが多い疾患です。しかし、咳ひとつ、座り姿勢だけで骨折することもあるという現実を知り、早めに対策を始めることが何よりも大切です。
その中でも、BFRトレーニングは「低負荷・高効果・安全性」の三拍子がそろった、これからの時代に必要とされる運動法です。骨を守り、健康寿命を延ばす手段として、今後さらに多くの人々に届くことが期待されます。
Yasuda, T., Fukumura, K., Iida, H., et al. (2020). Effects of low-load, elastic band resistance exercise combined with blood flow restriction on muscle size and arterial stiffness in older adults. Clinical Interventions in Aging, 15, 2411–2419.
PubMed
Centner, C., et al. (2023). Blood Flow Restriction Training and Bone Health: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Clinical Medicine, 12(15), 4783.
PMC
Bauer, D.C., et al. (2017). Ovarian hormone therapy and bone mineral density in women. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 102(5), 1621-1628.
PubMed
Guadalupe-Grau, A., et al. (2009). Exercise and bone mass in adults. Sports Medicine, 39(6), 439–468.
Springer
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通常のトレーニングには1RM(1回持ち上げることが限界の重さ)の60%以上の重さを必要としていますが、BFRトレーニングでは1RMの20%程度の重さで効果を得るとができます。
BFRトレーナーズ協会は、安全で的確なトレーニングの指導を行い、正しい知識と技術を持ったトレーナーを育成し、より多くの人たちにその効果を実感してもらえるようBFRトレーニングの普及を目指します。
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