コラム
2026/02/01

私たちBFRトレーナーズ協会に所属する皆さんは、日々トレーナーとしてクライアントの身体と向き合い、結果を出すために技術を研鑽されていることと思います。BFRトレーニングという素晴らしいメソッドを扱い、短時間で効率的な効果を提供する。その技術力は、私たちの最大の武器です。
しかし、今日は少し視点を変えて、技術と同じくらい、いや、これからの時代においては技術以上に重要になるかもしれない「コミュニケーション」についてお話ししたいと思います。
「いまさらコミュニケーション?」と思われるかもしれません。しかし、私たちが活動しているこの日本という国が直面している現実を直視したとき、コミュニケーションこそが、トレーナーとしての生存戦略であり、クライアントを救う唯一の手段であるという結論に至るのです。
まず、私たちのビジネスの土台となる日本社会の現状を、少し冷静な数字で見てみましょう。皆さんも「少子高齢化」という言葉は耳にタコができるほど聞いていると思いますが、その実態は想像以上に深刻です。
総務省などの統計によると、日本の人口は減少の一途をたどっています。2023年のデータでは、日本人住民の人口は前年に比べて約83万人も減少しました。これは、一つの県が丸ごと消滅するような規模で、毎年人口が減り続けている計算になります。
さらに衝撃的なのは、家族のあり方の変化です。 「結婚離れ」が叫ばれて久しいですが、婚姻数を30年前と比較してみると、その変化は劇的です。1990年代前半には年間約70万〜80万組あった婚姻件数が、現在では50万組を割り込んでいます。これを減少率にすると、30年前より約40%も減っていることになります。
人口が減り、結婚する人が減り、単身世帯が増える。これが意味することは何でしょうか。 それは、「孤独な人」が圧倒的に増えているということです。
家庭内での会話が減り、地域のつながりも希薄になり、職場もリモートワークで雑談が消えた。誰とも直接言葉を交わさずに一日が終わる——そんな生活を送る人が、高齢者だけでなく現役世代にも急増しています。
人は本来、社会的な生き物です。誰かと触れ合い、認められ、会話をすることで精神の安定を保ちます。孤独は、喫煙や肥満と同じくらい健康に悪影響を及ぼすとも言われています。 こうした時代背景の中で、私たちフィットネスジムやトレーナーが担う役割は、「単に筋肉をつける場所」から、「人とのふれあいを感じられる場所(サードプレイス)」へと、大きくシフトしているのです。
ここで、少し異業種の話をさせてください。先日、非常に考えさせられるニュースを目にしました。日本を代表する化粧品メーカー、資生堂に関する報道です。
資生堂といえば、かつては「花椿会」などの会員制度を通じ、街の化粧品店で美容部員(BC:ビューティーコンサルタント)がお客様一人ひとりの肌悩みを聞き、世間話をしながら、その人にぴったりの口紅や化粧水を選ぶ——そんな「対面営業」の強さで世界ブランドに上り詰めました。
しかし、近年の経営改革の中で、その風景が変わってしまいました。 報道(※)によると、ここ数年の資生堂は「デジタル化」や「効率化」を推し進めるあまり、現場での泥臭い対面販売を軽んじる傾向にあったといいます。 「顧客の話をじっくり聞き、個々に合う商品を販売する」という、かつては当たり前だったスタイルが非効率とみなされ、多くのBC(美容部員)が早期退職などでリストラされました。
その結果、何が起きたでしょうか。 2024年12月期には巨額の最終赤字に転落するという苦境に立たされています。記事には、元役員の言葉として「資生堂らしさが失われた」という悲痛な指摘がありました。
お客様は、単に「化粧品というモノ」が欲しかっただけではないのです。「私の肌のことを分かってくれている◯◯さんに相談したい」「あの場所に行くと元気になれる」という、人を通じた体験、つまりコミュニケーションに価値を感じていたのです。それを「コスト」として切り捨て、デジタルやEC(ネット通販)に置き換えようとした結果、顧客の心が離れてしまった。
これは、私たちフィットネス業界にとっても、決して対岸の火事ではありません。
今、フィットネス業界も「効率化」の波に飲まれています。 スタッフが常駐しない24時間営業のジム、AIがメニューを提案するアプリ、自宅で動画を見ながら行う宅トレ。これらは確かに便利で安価です。 もし、私たちが「BFRというトレーニングメソッド(技術)」だけを売り物にしているなら、いずれこうした自動化の波や、より安価なサービスに取って代わられるでしょう。正しい巻き方や圧の設定さえ分かれば、AIやロボットが指導する未来が来るかもしれません。
しかし、資生堂の事例が教えてくれるのは、「人は、人につく」という真理です。 どんなに優れた化粧品でも、それを勧めてくれる人の温かみがなければ売れなくなるように、どんなに効果的なBFRトレーニングでも、そこに「あなた」というトレーナーの人間味がなければ、クライアントは定着しないのです。
では、これからのBFRトレーナーに必要なことは何でしょうか。 それは、プロップ法の結論として改めて申し上げます。「コミュニケーション能力の強化」です。
ただし、ここで言うコミュニケーションとは、単に元気に挨拶をすることや、流暢に説明することだけではありません。 「孤独化社会」において求められているのは、クライアントの「承認欲求」や「所属欲求」を満たすような、深いレベルでの関わりです。
ジムに来るお客様は、身体を変えたいという欲求の裏側に、様々な感情を抱えています。 「最近、誰とも話していなくて寂しい」 「仕事のストレスを誰かに聞いてほしい」 「自分を認めてくれる場所が欲しい」
トレーニング中のインターバルで、そうした心の声に耳を傾けること。 「今日は少し顔色が優れないようですが、お仕事大変でしたか?」と気遣うこと。 「前回のセッションより、表情が明るくなりましたね!」と変化を言葉にして伝えること。
こうした、AIには決してできない「人間としてのふれあい」こそが、これからのジム経営、そしてトレーナー個人の価値を決定づけます。
特にBFRトレーニングは、トレーナーがクライアントの腕や脚にベルトを巻くという、物理的な接触(タッチ)を伴うメソッドです。これほど物理的にも心理的にもクライアントに近い距離にいるトレーナーは、他にはなかなかいません。 ベルトを巻くその手から、安心感や信頼感を伝えることができる。それは、孤独な現代人にとって、一種のセラピー(癒やし)にもなり得るのです。
資生堂が失いかけ、今ふたたび取り戻そうとしている「対面でのきめ細やかな対話」。 これこそが、高級ブランドとしての付加価値でした。 私たちも同じです。BFRトレーニングという高付加価値なサービスを提供する私たちは、技術のプロであると同時に、心の通うコミュニケーションのプロでなければなりません。
人口が減り、人と人とのつながりが希薄になる時代だからこそ、「あのトレーナーに会いたいからジムに行く」という動機は、何よりも強力な継続理由になります。
どうか、目の前のクライアントとの会話を大切にしてください。 効率化を追い求めるあまり、大切な「人とのつながり」を見失わないでください。 BFRの圧をかけながら、心にかかったストレスの圧は抜いてあげる。そんな温かいコミュニケーションができるトレーナーこそが、これからの日本を健康にし、生き残っていくのだと私は確信しています。
さあ、今日のセッションでは、クライアントにどんな言葉をかけますか? その一言が、誰かの孤独を救うかもしれません。
(参考・引用) ※ MSNニュース:『520億円赤字…どうなる資生堂 元役員が明かす魚谷体制の「負の遺産」 美容部員のリストラ…失われた「資生堂らしさ」 中国依存』より
ビジネス
24時間無人フィットネスジムの終わりの始まり
2022年8月に「フィットネスクラブの無人化は終焉を迎える」という記事を書きましたが、その一年後の2023年11月には、あるフィットネスジムが2,980円から4,980円(年縛りアリ)と大幅値上げをし...
齊木 英人
チョコザップの成功から学ぶ ジムの収益を上げる方法
フィットネスジム業界は淘汰の時代に突入しています。2024年2月時点で、資本金1億円以下のフィットネスクラブの倒産件数は28件と、前年の16件から増加しています。この背景には、コロナ禍で減少した会員数...
齊木 英人

【コラム】「満足」を知るシニア層が求める、次世代フィットネスジムの姿
1. 満たされない「欲求」を持つシニア層のリアリティ現在、日本のフィットネス市場において、最も大きなポテンシャルを秘めている顧客層。それは、まぎれもなく「シニア世代」です。しかし、多くのジムがこの層を...
齊木 英人

パーソナルトレーナーに必須「コミュニケーション」
孤独化する日本社会で、私たちトレーナーが提供できる「真の価値」とは——技術の先にあるコミュニケーションの力なぜ今、コミュニケーションなのか私たちBFRトレーナーズ協会に所属する皆さんは、日々トレーナー...
齊木 英人

PREP法(結理事結)でコラムを書こう!AI時代を勝ち抜く!
P【Point: 結論】2026年はPREPでコラムを書こう!AI時代を勝ち抜き、未来の顧客を育てる情報発信の新常識BFRトレーナーズ協会の皆様、こんにちは。2026年の活動計画が本格化するこの時期、...
齊木 英人

人口減少時代を生き抜くジム経営:外国人集客という新たな視点と高齢化の波
日本の人口は、超高齢化社会を迎え、減少の一途をたどっています。2025年1月1日時点での総人口は1億2433万690人となり、前年から約90万人の減少となりました。この減少は、特に地方において深刻な問...
齊木 英人
通常のトレーニングには1RM(1回持ち上げることが限界の重さ)の60%以上の重さを必要としていますが、BFRトレーニングでは1RMの20%程度の重さで効果を得るとができます。
BFRトレーナーズ協会は、安全で的確なトレーニングの指導を行い、正しい知識と技術を持ったトレーナーを育成し、より多くの人たちにその効果を実感してもらえるようBFRトレーニングの普及を目指します。
© BFR Trainers Institute 2025