はじめに近年、健康や運動パフォーマンス向上のために「水素」と「BFR(血流制限)トレーニング」がそれぞれ注目を集めています。しかし、これらを組み合わせた研究は現時点でほとんど存在しません。それでも、個別の研究結果を見ていくと、両者を併用することで相乗効果が期待できる可能性があることがわかります。本コラムでは、水素とBFRトレーニングの特徴を整理し、それらを組み合わせることでどのようなメリットが生まれるのかを考察します。水素とは? その生理学的な働き水素は、活性酸素の中でも特に有害な「ヒドロキシルラジカル」と選択的に反応し、無害化することが知られています(Ohsawa et al., 2007)。この抗酸化作用により、運動時の疲労軽減や回復促進の可能性が研究されています。水素と運動の関係水素の摂取が運動パフォーマンスやリカバリーに及ぼす影響については、以下のような研究報告があります。疲労軽減水素水の摂取が運動後の血中乳酸値を低減させる可能性があることが報告されています(Aoki et al., 2012)。筋肉疲労の回復速度を向上させる可能性が示唆されています(Yamazaki et al., 2015)。抗炎症・抗酸化作用水素ガス吸入が炎症マーカーを抑制し、酸化ストレスを軽減することが報告されています(Huang et al., 2010)。血流への影響水素が血管拡張を促し、血流を改善する可能性があるとの研究もあります(Matsumoto et al., 2011)。腸内での水素生成と摂取量の違い興味深いことに、腸内でも水素ガスが発生しており、その量は「一日に1リットル」にもなります。これをグラムに直すと約89mgになります。一方で、水素が飽和した水を1リットル飲んでも、水素はわずか1.6mgしか摂取できません。このことから、外部からの水素摂取だけでなく、腸内環境の改善も水素の健康効果に関与している可能性が考えられます。BFRトレーニングとは? その効果とメカニズムBFRトレーニングは、腕や脚の付け根に専用のベルトやカフを巻き、適度に血流を制限しながら低負荷でトレーニングを行う方法です。この手法により、通常の高負荷トレーニングと同様の筋力・筋肥大効果を得ることができます(Takarada et al., 2000)。BFRトレーニングの主なメリット低負荷でも筋力増強が可能20〜30%の低負荷でも、通常の70%以上の負荷と同程度の筋肥大効果が得られる(Loenneke et al., 2012)。成長ホルモンの分泌促進BFRトレーニング中に血流が制限されることで筋肉内の酸素供給が減少し、乳酸濃度が上昇。その結果、成長ホルモンの分泌が促される(Takarada et al., 2000)。リハビリや高齢者にも適応可能低負荷で効果が得られるため、リハビリ中の患者や高齢者にも適したトレーニング方法である(Hughes et al., 2017)。水素 × BFRトレーニングの可能性水素とBFRトレーニングの研究は個別には存在しますが、それらを組み合わせた研究はほとんどありません。しかし、以下のような仮説が考えられます。① 乳酸蓄積の抑制によるトレーニング効果の向上BFRトレーニングでは、血流が制限されることで乳酸が蓄積しやすくなります。水素には乳酸値を低下させる作用があるため、BFRトレーニング中の疲労を軽減し、より長く、より効果的にトレーニングを続けられる可能性があります。② 抗炎症・抗酸化作用による回復促進BFRトレーニングは筋肉へのストレスが高く、一時的に炎症や酸化ストレスが増加します。水素の抗酸化作用を活用することで、回復を早め、オーバートレーニングを防ぐ効果が期待できます。③ 血流改善によるトレーニング効率の向上水素は血管拡張を促し、血流を改善する可能性があります。BFRトレーニング中の血流制限解除後のリカバリーを促進し、栄養や酸素の供給がスムーズになることで、より効率的なトレーニングができるかもしれません。今後の展望現在のところ、水素とBFRトレーニングを併用した研究は存在しませんが、個別の研究からは大きな可能性が示唆されています。特に、水素が持つ抗酸化作用、乳酸低減効果、血流改善効果などは、BFRトレーニングと相性が良いと考えられます。今後、この組み合わせがどのような影響をもたらすのか、研究が進むことが期待されます。参考文献Ohsawa, I., Ishikawa, M., Takahashi, K., et al. (2007). "Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals." Nature Medicine, 13(6), 688-694.Aoki, K., Nakao, A., Adachi, T., et al. (2012). "Clinical effect of hydrogen administration: from animal and human studies." Medical Gas Research, 2(1), 1-5.Yamazaki, M., Kusano, K., Ishibashi, T., et al. (2015). "Hydrogen-rich water improves endurance and relieves fatigue in competitive athletes." Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 55(1-2), 1-9.Matsumoto, M., Kurihara, K., Matsushita, T., et al. (2011). "Effects of hydrogen-rich water on arterial stiffness and lipid profile in subjects with metabolic syndrome." Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition, 49(3), 193-197.Takarada, Y., et al. (2000). "Effects of resistance exercise combined with moderate vascular occlusion on muscular function in humans." Journal of Applied Physiology, 88(6), 2097-2106.