〜最新の知見から読み解く可能性〜日本における発症頻度と有名人の例ギラン・バレー症候群は年間人口10万人あたり約1〜2人が発症するとされ、日本では毎年およそ1,000〜2,500人が新たに発症しています。この病気にかかった日本の有名人には、女優の大原麗子さん、芳根京子さん、堀ちえみさん、元プロ野球選手の落合博満さんがいます。いずれも闘病を経て復帰されたことから、希望を与える存在として紹介されることも多いです。新型コロナウイルスとの関係新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行以降、後遺症としてギラン・バレー症候群を発症する例が世界中で報告されています。2021年に発表された複数の系統的レビューによると、新型コロナに感染した人のうち、約0.05〜0.1%がギラン・バレー症候群を発症したとされています。数としては少ないですが、明らかに関連性が見られるとの報告が複数存在します。例えば、スペインの研究では、COVID-19感染後にギラン・バレー症候群を発症した複数の症例が記録されており、これまでのように「カンピロバクター菌」などの細菌感染に限らず、ウイルス感染でも神経障害が引き起こされることが明らかになりました。コロナワクチンとの関連も?また、稀ではありますが、mRNAワクチン接種後にギラン・バレー症候群を発症した事例も報告されています。ただし、これは極めて稀であり、発症率は数十万〜百万回の接種に1回程度と考えられています。治療とリハビリの基本ギラン・バレー症候群の急性期には、以下の治療が行われます。免疫グロブリン療法(IVIG):異常な免疫反応を中和するための抗体を投与。血漿交換療法(PE):血中の自己抗体を取り除く方法。支持療法:呼吸管理、栄養、感染対策など。回復期において最も重要なのがリハビリテーションです。筋力低下、関節拘縮、疲労感など、日常生活に戻るための課題は多く、患者さんの状態に応じた段階的な運動療法が必要とされます。BFRトレーニングとは?BFRトレーニング(Blood Flow Restriction Training)は、BFRトレーニングベルトで腕や脚の血流を一時的に制限し、軽い負荷のトレーニングでも筋肉に大きな刺激を与える方法です。通常の筋トレと比べて身体への負担が少なく、高齢者や疾患後のリハビリ、アスリートの回復など幅広い分野で活用が進んでいます。ギラン・バレー症候群へのBFRトレーニング応用の可能性現時点では、ギラン・バレー症候群とBFRトレーニングの直接的な関連を示した研究は多くありません。しかし、他の神経疾患において有効性が報告されていることから、GBS患者にも応用可能であると推測できます。実際、ギラン・バレー症候群の方にBFRトレーニングを導入してよい結果も報告されつつあります。関連する研究例:*2022年の系統的レビュー(Chulvi-Medranoら)*では、脳卒中や多発性硬化症、脊髄損傷などの神経疾患患者に対してBFRトレーニングが感覚運動機能、筋力、疲労感の改善に効果的であると報告されています。*2015年のケーススタディ(Takaradaら)*では、慢性的な筋力低下のある患者に対してBFRトレーニングを行った結果、筋力の回復が認められました。*2022年の調査研究(Nguyenら)*では、神経障害を持つ患者に対してBFRを臨床的に導入している医療・リハビリ専門職の多くが「安全かつ有益」と評価しています。これらの知見をもとにすると、ギラン・バレー症候群のように「感染後に神経が障害され、筋力が著しく低下する」状況でも、軽負荷で効果を出せるBFRトレーニングは非常に理にかなったリハビリ手法と考えられます。安全性と今後の展望ただし、ギラン・バレー症候群では自律神経の異常も出現するため、血圧や心拍の変動に十分注意する必要があります。BFRの導入に際しては、医師の許可と専門知識を持つ指導者の監督のもとで行うことが前提です。今後、ギラン・バレー症候群患者を対象としたBFRの臨床研究が進めば、その有効性と安全性がさらに明らかになると期待されます。まとめギラン・バレー症候群は、誰もが感染症をきっかけに発症し得る神経疾患であり、新型コロナウイルスの影響によってその発症例も注目されています。回復には時間がかかるものの、適切なリハビリによって元の生活を取り戻すことは十分に可能です。BFRトレーニングは、低負荷でも高い効果が期待できる新しいリハビリ手法として、ギラン・バレー症候群にも応用できる可能性があります。すでに導入された症例ではよい結果も報告されつつあり、今後の研究によりさらなる展望が開けることが期待されます。参考文献Chulvi-Medrano I, et al. (2022). Effects of Blood Flow Restriction Training in Neurological Disorders: A Systematic Review. J Clin Med.Takarada Y, et al. (2015). Low-Load Resistance Exercise with Blood Flow Restriction Improves Muscle Strength in Patients with Muscle Weakness: A Case Series.Nguyen V, et al. (2022). Clinical Use of Blood Flow Restriction in People with Neurological Disorders: A Survey.Toscano G, et al. (2020). Guillain-Barré Syndrome Associated with SARS-CoV-2. N Engl J Med.Abu-Rumeileh S, et al. (2021). Guillain–Barré Syndrome Spectrum Associated with COVID-19: An Updated Systematic Review. Eur J Neurol.