コラム

近年、女性の社会進出が進む一方で、月経に関する無理解は未だに根強く残っています。特に職場やフィットネスジムといった現場では、月経前症候群(PMS)に苦しむ女性への理解や配慮が行き届いていないケースが多く見受けられます。女性専用ジムや女性のクライアントが多い施設においては、この問題への適切な対応が急務であり、経営者やスタッフの「知識と姿勢」が問われる時代に入っています。
日本財団が2022年に発表したジェンダーに関する調査では、女性の上司でさえ、PMSや月経に伴う不調への理解が浅く、部下の苦しみに無関心であることが少なくないという実態が明らかになりました(日本財団:ジェンダーギャップ調査)。これは、単に性別の違いだけでなく、正しい知識の共有がなされていないという構造的な問題を浮き彫りにしています。
このような状況は、フィットネス業界にも同様に当てはまります。インストラクターやパーソナルトレーナーが女性であっても、PMSに関する個人差や深刻度を理解していなければ、クライアントの状態を見誤るリスクが高まります。
PMSは単なる気分の浮き沈みではなく、ホルモンバランスの乱れによって引き起こされるれっきとした生理的現象です。症状は多岐にわたり、イライラや不安感、集中力の低下、激しい腹痛や頭痛、倦怠感などが挙げられます。これらは日常生活はもちろん、運動パフォーマンスにも大きな影響を及ぼします。
2021年の国際スポーツ科学誌『Journal of Sports Sciences』に掲載された研究では、月経前のホルモン変動が筋力や持久力、集中力の低下に関与していることが示されており、アスリートのトレーニング設計においても考慮すべき要素であると報告されています。
PMSに対する理解を深めることは、ジム運営の視点でも重要です。特に、月額制や回数制でプログラムを提供している施設では、PMSによる体調不良が原因で欠席してしまった場合、受講者が損をしてしまう構造になりがちです。これに対して、以下のような制度の導入が考えられます。
PMS振替制度の導入
毎月1回まで、PMSによる休講を理由とした振替受講を可能とする制度を導入することで、クライアントに安心感を提供できます。単なる「優しさ」ではなく、「信頼と継続率の向上」につながる戦略的な施策です。
自己申告制を前提とした柔軟な運営
PMSの症状は個人差が大きいため、「医師の診断書提出」などの厳格なルールではなく、自己申告ベースでの柔軟な対応が望まれます。
女性スタッフやトレーナーへのPMS教育の実施
スタッフ自身がPMSの知識を持つことで、無理解による誤解や不適切な対応を防ぐことができます。特に、BFR(血流制限)トレーニングなど体調への配慮が不可欠なプログラムを提供している施設では、トレーナーのリテラシーが安全性を左右します。
女性専用ジムにおいて、PMSや月経に対する理解を示すことはもはや「特別なサービス」ではありません。それは、女性の体に真摯に向き合うジムとしての“信頼の証”であり、選ばれる理由になります。
欧米の先進的な女性向けフィットネス施設では、すでに月経周期に合わせたトレーニングプログラムの提案が始まっており、「無理をしない」「自分のリズムで続ける」という発想が浸透しています。2020年に発表された『Frontiers in Physiology』の論文でも、月経周期に合わせたトレーニングプランが女性の継続率やパフォーマンス向上に寄与することが示唆されています。
これからのフィットネス業界に求められるのは、単なるサービスの提供者ではなく、クライアントの体と心に寄り添う“パートナー”としての姿勢です。特に女性向けのサービスを展開しているジムにとって、PMSに関する理解と対応は、そのまま信頼と顧客満足度の向上につながる重要な要素です。
「PMSだから休んでも大丈夫」「あなたのリズムを大切にして」と言える環境こそが、これからのフィットネスの理想形ではないでしょうか。
日本財団「ジェンダーギャップに関する意識調査」(2022年)
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2022/81996/gender
McNulty KL, Elliott-Sale KJ, et al. (2020). "The effects of menstrual cycle phase on exercise performance in eumenorrheic women: a systematic review and meta-analysis." Frontiers in Physiology, 11:485.
Romero-Parra N, et al. (2021). "Impact of the menstrual cycle on sports performance: a review." Journal of Sports Sciences, 39(11): 1234–1244.
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