腹部がん患者の多くは、手術までの限られた期間で体力を高めることが課題となっています。特に高齢患者にとって、衰弱した体調が術後の回復に影響を及ぼす可能性があるため、術前の準備、いわゆる「プレハビリテーション」の重要性が増しています。しかし、実際にプレハビリテーションがどの程度臨床結果に影響するかは、これまで明確にされていませんでした。そこで注目されたのが、血流制限(BFR)トレーニングとスポーツ栄養サプリメントを組み合わせた「マルチモーダルスポーツ科学アプローチ」です。本アプローチを検証するため、21名の腹部がん患者が手術前に4週間のBFRトレーニングと栄養補給を行うプレハビリテーションプログラムに参加しました。比較対象として、通常の術前ケアを受けた71名の患者のデータを用いました。90日後の臨床結果をもとに、プログラムの有効性が評価されました。結果は非常に興味深いものでした。プレハビリテーションを受けた患者は、入院期間が平均5.5日短縮され、また全体的な合併症の発生率も低下しました。これはBFRトレーニングとスポーツ栄養の組み合わせが、患者の体力維持や早期の回復を促進する可能性を示しています。一方、重篤な合併症や再入院率には明確な効果は見られませんでしたが、術後5日目には歩数が58%増加しており、術後の回復が早まっていることも分かりました。本研究から、BFRトレーニングが高齢の腹部がん患者にとって有効な術前リハビリ手法である可能性が示唆されました。限られた期間で実施できるため、体力が衰えた患者にも無理なく取り入れやすく、術後の回復期間を短縮し、合併症リスクを低減できる点がメリットといえるでしょう。BFRトレーニングは、筋肉に適度な刺激を与えることで筋力の維持と向上を図りますが、従来の高強度トレーニングと比べて低負荷で行えるため、体力が不十分な高齢患者にも適しています。また、スポーツ栄養のサポートを併用することで、必要なエネルギーや栄養を効率的に補充でき、体力維持がさらに支えられます。BFRトレーナーズ協会では、一般のBFRトレーナーが、がん患者にBFRトレーニングをすることを禁止しています。BFRトレーニングを行うことにより、がん細胞も増やしてしまうmTORを活性化させてしまうからです。※The Impact of a Multimodal Sport Science-Based Prehabilitation Program on Clinical Outcomes in Abdominal Cancer Patients: A Cohort StudyPMID: 35608376 DOI: 10.1177/00031348221103657