老化に伴う筋萎縮は「サルコペニア」と呼ばれ、これからの高齢化社会において、その対策が重要なトピックとなってくる。ホエイプロテインの摂取や筋力トレーニングが有効な対策として発表されているが、BFRトレーニングもその仲間入りができそうだ。サルコペニアにおいては、「神経筋接合部」の変性による機能や形態の変化が大きく関係してくる。そして神経筋接合部の形成には「MuSK」遺伝子が必要となる。(※1)MuSKはアセチルコリンレセプターとともに筋細胞膜に存在し、アセチルコリンレセプターの凝集を受け持っている。しかし加齢によって筋細胞膜におけるアセチルコリンレセプターの凝集形が崩れ、シナプス襞の減少や運動神経終末の縮小が起こる。これにはMuSKの発現低下が関係しているものと思われる。そこでBFRトレーニングである。老齢マウスにおいて脚部の血流制限を行い、軽い有酸素運動を10週間に渡って行わせたところ、MuSKタンパクがコントロール群と比較して増加していたのだ。そして筋肥大も起こっていた。(※2)さらにニコチン様アセチルコリンレセプターの増加も認められている。(※3)さらにPGC-1αも増加していた。PGC-1αは脂肪酸の酸化とともにGLUT4の増加によってインスリンの働きを高めたり、ミトコンドリアの合成を促進したりすることが知られている。低酸素の状態だと酸素を有効に利用しようとするため、ミトコンドリアを増やさざるを得ないわけだ。なおNOの増加も関与している。(※4, ※5)ダンベルなどを用いて行うトレーニングは高齢者にとってもハードルが高いが、血流制限をしてウォーキングを行う程度でサルコペニア解消に役立ち、ミトコンドリアも増加できるとなれば、これからの高齢化社会における福音となるに違いない。※1:The receptor tyrosine kinase MuSK is required for neuromuscular junction formation and is a functional receptor for agrin.Cold Spring Harb Symp Quant Biol. 1996;61:435-44.※2:Mild aerobic training with blood flow restriction increases the hypertrophy index and MuSK in both slow and fast muscles of old rats: Role of PGC-1α.Life Sci. 2018 Mar 28. pii: S0024-3205(18)30165-6. doi: 10.1016/j.lfs.2018.03.051※3:Long-term Low-Intensity Endurance Exercise along with Blood-Flow Restriction Improves Muscle Mass and Neuromuscular Junction Compartments in Old Rats.Iran J Med Sci. 2017 Nov;42(6):569-576.※4:HIF-independent regulation of VEGF and angiogenesis by the transcriptional coactivator PGC-1α.Nature. 2008; 451: 1008–1012.※5:Transient hypoxia stimulates mitochondrial biogenesis in brain subcortex by a neuronal nitric oxide synthase-dependent mechanism. J Neurosci. 2008; 28: 2015–2024.