BFRトレーニングはmTORC1を活性化するため、筋発達に効果はあるものの、同時に癌細胞を増殖させてしまう危険性も考えられる。そのため、癌患者にBFRトレーニングは強く勧められない。また緩解後も、5年ほどはBFRトレーニングを控えるようにしたほうが良いと思われる。ただし治療は常にリスクベネフィットを勘案して行われるべきで、癌細胞増殖のリスクがあったとしても、それを上回るベネフィットがあれば、話は別となってくる。ネオアジュバント化学療法を受けている早期乳癌患者を対象に、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)予防のため、治療的運動とBFRトレーニングを組み合わせたテーラーメイド・プログラム「PRESIONA」の急性効果および累積効果を分析する臨床試験が計画されている。(※)ネオアジュバント化学療法というのは術前化学療法のことで、手術する前に病巣を小さくして手術を行いやすくする療法のことである。また全身転移が懸念される場合に、その可能性がある癌細胞を根絶させて治療成績を向上させる目的で行う化学治療のことをいう。ただし化学療法には末梢神経障害がつきものである。抗がん剤の多くはがん細胞内の微小管に作用するが、同時に神経細胞の微小管にも作用してダメージを与えてしまうのだ。特にタキサン系と呼ばれるパクリタキセルやドセタキセルなどは殺細胞性の抗がん剤であり、細胞増殖の盛んな細胞を障害する。この臨床試験ではタキサン系抗がん剤を投与する72名の早期乳癌患者を対象に、低負荷の有酸素運動とBFRトレーニングを併用することが予定されている。抗がん剤を使う場合、細胞増殖は抑えられるため、BFRによる癌細胞増殖のリスクよりも、末梢神経障害を抑えるベネフィットのほうが高いと考えられる。臨床試験の結果がどうなるか、見守っていきたい。※:Prevention of Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy with PRESIONA, a Therapeutic Exercise and Blood Flow Restriction Program: A Randomized Controlled Study ProtocolPhys Ther. 2022 Jan 5;pzab282. doi: 10.1093/ptj/pzab282.