血流制限トレーニング(BFRトレーニング)は20年以上にわたり、多くのトレーニーや患者に利用されて効果を挙げてきました。2016年のアンケート調査(※1)では、神経筋疾患の患者にも広く用いられており、特に副作用などの報告はありません。ここで参考になる報告を紹介します。43歳の女性で過去に2回の交通事故を起こし、頸部と上肢に神経症状を有しているピアニスト(コンクール優勝経験あり)を対象にした研究です。(※2)圧力は最大で130~170mmHgで、圧迫時間は3分程度です。引いた曲はショパンのエチュード「革命」でした。BFRを行った場合、演奏直後の前腕部周径および上腕部周径がBFR無しの場合よりも太くなっていました。握力はBFRを行ったほうが低下度は大きくなっていました。BFRによる周径の増加は筋タンパクの同化に関係していると考えられており、前腕および上腕の神経筋機構の改善に大きく寄与すると思われます。なお上腕よりも前腕に作用が大きく出たようです。また本研究においては左腕よりも右腕における差(周径の増加、握力の低下)が大きくみられました。ショパンの「革命」において、左手はスムーズで連続的な打鍵なのにたいし、右手は断続的で強く大きな動き(オクターブ)が必要とされます。また左手は動きが小さく細かいのですが、スピードは速くなります。いっぽうで右手はスピードは遅いものの、強く大きな動きです。このような違いが関係しているのでしょう。普通のトレーニングでは左右均等な動きとなっていますが、ピアノのように左右が違う動きをした場合の結果として、この研究は示唆に富む内容となっています。また上腕のみならず、前腕への作用がむしろ強かったというのも参考になる結果でした。※1:Use and safety of KAATSU training: results of a national survey in 2016. Int J KAATSU Train Res, 2017, 13: 1–9.※2:Is blood flow-restricted training effective for rehabilitation of a pianist with residual neurological symptoms in the upper limbs? A case studyJ Phys Ther Sci. 2021 Aug;33(8):612-617. doi: 10.1589/jpts.33.612. Epub 2021 Aug 2.