BFRトレーニング、もしくは動かさずに単にベルトを締めるだけであっても、鎮痛作用が発揮されることは経験的に知られています。しかしどのようにして鎮痛作用が起こるのかは、今のところ不明です。40% VO2maxの低強度有酸素運動と、弱い圧での低強度有酸素運動、強めの圧での低強度有酸素運動、70% VO2maxの高強度有酸素運動をそれぞれ行わせ、運動前と運動5分後に痛覚閾値(PPT:Pressure Pain threshold)を測定しました。さらにβエンドルフィンと2-アラキドノイルグリセロールの血中濃度を運動前と運動10分後に測定した研究があります。(※1)その結果、BFR群は弱い圧でも強い圧でも、非BFR群に比べて運動後のPPTが増加しました。順番としては、「低強度< 弱い圧のBFR = 高強度 <強い圧のBFR」となります。運動後の血中β-エンドルフィン濃度は、弱い圧のBFR(11%)と高強度(14%)で上昇し、強い圧のBFR(29%)で最大の上昇が起こりました。運動後の血中2-アラキドノイルグリセロール濃度は、弱い圧のBFR(22%)と強い圧のBFR(20%)で上昇し、高強度(57%)で最大の上昇が起こりました。通常の有酸素運動にBFRトレーニングを追加することで、全身の痛覚低下を引き起こされています。これは内因性オピオイド(βエンドルフィン)およびエンドカンナビノイド(2-アラキドノイルグリセロール)の活性化によるものなのかもしれません。β-エンドルフィンはストレスの低下に役立ち、さらに疼痛管理や報酬効果、行動の安定などをもたらすとされ、中枢神経系と末梢神経系の双方で痛覚を調節するようです。いっぽうで内因性カンナビノイドである2-アラキドノイルグリセロールは脳内マリファナとも呼ばれ、脳の神経細胞の活動が高まると分泌される物質です。この作用が強まることで、抗不安作用、抗うつ作用、鎮痛作用が高まることが知られており、BFRトレーニングの効果に新たな展開が示されてくるかもしれません。※1:Aerobic exercise with blood flow restriction causes local and systemic hypoalgesia and increases circulating opioid and endocannabinoid levelsJ Appl Physiol (1985). 2021 Sep 9. doi: 10.1152/japplphysiol.00543.2021.