BFRトレーニングは血流を制限することにより、組織に酸素が行きわたらなくなります。そのため、筋肉はいわゆる「無酸素運動」を行うことになります。通常は軽い使用重量だと酸素が使われる有酸素運動となり、この場合は「遅筋」が使われます。遅筋はその名の通り、収縮速度が遅く、発揮パワーも弱いのですが、代わりに長時間に渡って運動することができます。逆に重い使用重量でトレーニングすると、これは無酸素運動となり、ここでは「速筋」が使われます。速筋は収縮速度が速く、発揮パワーも強くなりますが、長時間の運動はできません。BFRトレーニングのメリットの一つは、軽い重量のトレーニングでも無酸素運動とすることができるため、速筋繊維に刺激を与えることが可能になるというものです。では、BFRトレーニングで重い重量でのトレーニングを行なったらどうなるのでしょうか。BFRによる血流制限をかけた状態で、100mスプリントを行った研究があります。(※)BFR群と対照群を12名ずつに分け、両者にマックスの60~70%の速度で100mスプリントを6本、週2回を6週間に渡って行わせました。その結果、BFR群はタイムが平均0.38秒短縮したのに対し、対照群は平均0.16秒の短縮に留まりました。またBFR群は大腿直筋の筋肥大が顕著に認められていますが、大腿二頭筋は変化がありませんでした。(※)なおレッグプレスによる測定では、筋力に違いはありませんでした。また成長ホルモンやテストステロン、IGF-1、コルチゾルなどのホルモンの変化も、特にありません。ただし筋ダメージの指標であるh-FABP(心臓由来脂肪酸結合タンパク)はBFR群のほうが明らかに少なくなっていました。なおこれは心筋梗塞などのときに高くなるタンパク質です。BFRトレーニングによってスプリント能力が高まったのは面白い現象です。大腿直筋は比較的遅筋が多いため、BFRの筋肥大効果が強まったのでしょう。しかし大腿二頭筋は速筋繊維が多かったため、それほど違いが出なかったのかもしれません。この研究では大殿筋や腸腰筋がどうなったかは調べられていないようですが、大腿直筋の発達だけでもスプリント能力向上に貢献する可能性は十分にあります。100mスプリントといえば非常に短時間で終わるトレーニングですが、それでもBFRトレーニングの可能性が見出されました。今後、さまざまな瞬発力系競技への応用が行われるかもしれません。※Low intensity sprint training with blood flow restriction improves 100 m dash.J Strength Cond Res. 2016 Nov 25