Part 3ではBFRトレーニングによってmTORが活性化され、タンパク合成が起こるという話をしました。今回は「ミオスタチン」について解説していきます。生命にとってタンパク質は非常に重要な栄養素です。タンパク質は骨や内臓、ホルモン、神経伝達物質、酵素などの材料になり、生命を維持するために使われます。これらと比べると、筋肉の存在というものは、生命維持においてそれほど必要性が高くありません。そのため筋肉にタンパク質が使われないようにして、必要なところにタンパク質を使えるようにする必要があります。その役割を担っているのがミオスタチンです。つまりミオスタチンは筋肉が増えないようにする物質だと考えてください。ミオスタチンはTGF-βというサイトカインの仲間で、ActRⅡBという受容体に結合してからSmad2とSmad3のリン酸化を介してSmad 4の活性化と核内移行をもたらします。これによってAktが抑制されてmTORも抑制されます。さらにActRⅡBの活性化はRas→Erk1/2やTAK1→JNKシグナルの活性化、TAK1→p38MAPKの活性化をもたらし、MyoRやMyogenin などの発現を低下させます。このあたりは別にどうでも良いのですが、ミオスタチンが筋肉の増加を抑制してしまうということだけ押さえてください。そしてBFRトレーニングにより、ミオスタチンを減らすことができるのです。(※1, ※2)つまり血流制限によりmTORが活性化してタンパク合成が亢進するとともに、ミオスタチンが減少して筋減少を抑制できるというわけです。なお下肢動脈疾患(LEAD)患者にたいするBFRトレーニングの効果を評価した論文では血流制限によりミオスタチン低下・S6キナーゼ活性化によるタンパク合成亢進のほか、成長因子の増加やヒートショックプロテイン、NO合成酵素の濃度上昇、血管新生などが起こるとされています。(※3)※1:Human muscle gene expression following resistance exercise and blood flow restriction.Med Sci Sports Exerc. 2008 Apr;40(4):691-8. doi: 10.1249/MSS.0b013e318160ff84.※2:Strength training with blood flow restriction diminishes myostatin gene expression.Med Sci Sports Exerc. 2012 Mar;44(3):406-12. doi: 10.1249/MSS.0b013e318233b4bc.※3:Exercise-Induced Vascular Adaptations under Artificially Versus Pathologically Reduced Blood Flow: A Focus Review with Special Emphasis on Arteriogenesis.Cells. 2020 Jan 31;9(2). pii: E333. doi: 10.3390/cells9020333.