バレエ・ダンスに於ける医学上の問題は、特に、整形外科的な問題としてはバレエ・ダンスの外傷と障害があります。このバレエ外傷とバレエ障害の違いは何でしょうか。外から大きな力が加わることによって発生する骨折、脱臼、筋肉や靭帯の断裂が生じた場合、それをバレエ外傷と呼びます。一方、繰り返し骨や筋肉、靭帯、関節軟骨などに外力が加わり生じるバレエ障害があります。この二つを合わせて「バレエ傷害」と言います。この傷害が起こる背景には、外力が加わる以外に生まれつき傷害が起きやすい骨や筋肉であるといった遺伝的要因が関係している場合、とっさの時に傷害を避ける俊敏さや平衡感覚を持ち合わせていないといった神経が関与する場合、筋・骨格系のバランスや身体の柔軟性などが関係している場合があります。特に、バレエ傷害のあるものは、発育期にある子供たちに集中して起こるといった特徴があります。成長期に於いては、成長のもととなる外力に対して弱い部分(骨端線)が存在するためにこの時期に特有の傷害を起こします。いわゆる使いすぎ症候群(オーバートレーニング、過密な舞台・コンクール日程など)、誤ったトレーニング、不適切なスタジオの床や足に合わないトゥシューズ・バレエシューズを使用することによっても障害が発生します。関節軟骨や骨端線の損傷は、いったん起きてしまうと後遺症を残し易いため、その予防と大切が重要です。障害を未然に防ぐには、子供たちのチョッとした訴え(特に、痛みの訴え)を見逃さないようにすることが肝心です。アメリカのバレエ傷害治療の特徴 ニューヨーク大学医学部関節障害医院には、全米で唯一のバレエ・ダンス障害専門診療所「ハークネスダンス障害センター」があります。この診療所には、米国の他、カナダ、中南米の国々からも患者が治療に来ます。ここでは、バレエ傷害の8割をリハビリテーションで完治させるのです。すなわち、痛みを覚えた時点で、適切な治療を早期に受ければバレエの傷害の8割が素早く完治までもって行くことができるのです。もちろん、バレエ・ダンス傷害を熟知した医療スタッフが常駐することから、適切な治療を逸早く受けることができることで患者の早期改善を可能にしています。 アメリカのバレエ団、バレエ学校には常勤のフィジスト(運動療法士)が必ずおり、怪我の早期の対処を行い、傷害が慢性化することなくリハビリテーションで完治まで持っていくことを可能にします。 このフィジストがバレエ・ダンス専門医の診療を受ける必要を認めた場合、バレ傷害治療の経験ある整形外科医と専門施設での診察を手配します。このダンーと医療機関の間にフィジストが介在することで、素早い治療を可能としているのです。リハビリによるバレエ傷害治療 リハビリテーションによる治療がバレエ・ダンス傷害の新たな手法として高く評価されているのが欧米のバレエ・ダンス界の特徴です。この日本で開発されたBFRトレーニングベルトを使用するリハビリによってバレエ・ダンス傷害の治療に高い効果を挙げた研究が学会で評価されるようになりました。 シンスプリント、アキレス腱炎症、足関節と膝関節周辺の捻挫などバレエ・ダンスの代表的な傷害がわずか1~2回のリハビリで痛みが消える症例を学会で発表してきました。これらの傷害の特徴は、適切な早期治療を誤ることで、治癒までの時間が長引き、しかも慢性的な疾患となることがあることです。舞台、コンクールが目前に迫っている場合、治療を後回しにしてしまうケースが多く見られます。舞台が目前に迫った時、すぐれた鎮痛効果のあるバレエ・ダンスリハビリ治療をご検討ください。メスを入れることなく、リハビリによって傷害を治療するバレエ・ダンス傷害治療が日本のバレエ界の発展に寄与できることを信じています。「里見悦郎のバレエ障害講座:BFRトレーニングを用いたバレエ障害治療」より