身長が伸び、脚の骨が伸びる10歳前後は、骨が伸びるに従い筋肉も引き伸ばされます。筋肉と骨との間を繋ぐ腱に強い張力が発生し、その張力に腱が持ち堪えることができずに痛みが発生することが多くなります。さらに、腱が骨に付着する骨膜が炎症を起こし、痛むことがあります。この時期の運動は「同じ動作を過度に繰り返し、反復しない」、「翌日に痛みが出るような運動を避ける」、「1ヶ所に負担が集中するような運動は避ける」、「1回の運動をあまり長くせず、休養と栄養を十分に取る」ことが基本であることが、運動生理学の研究から判っています。そのようなことから、スポーツ医学の分野からは、急速に体重が増え、身長が伸びる時期に、足と腰に全体重が掛かる運動を繰り返すトレーニングは回避するように言われています。すなわち、この時期に大きく腰を上下させ、体重が膝関節と足関節に掛かる運動を繰り返し行うことは、子どもたちの身体を痛める原因の一つとなるのです。この年齢の少年少女の怪我の原因の多くは「使いすぎ症候群(オーバーユースドシンドローム)」と言われるものです。この小学高学年から、中学生に掛けての生徒のバレエ障害の原因も「使いすぎ症候群」が最も大きな原因です。この年齢期は、神経系の発達も著しく、難しいテクニックが急速に習得できる時期であることが神経生理学の視点でも指摘されています。機械体操の選手たちもこの時期に運動神経系の発達が高まり、難しい身体の動きを制御する組み合わせが小脳に完成するため、この時期の訓練次第で将来が決まると言われます。クラシックバレエは、トウシューズを履いてのバランステクニック、ピルエットなどの高度な回転テクニックの基礎を習得するのが12歳から15歳の中学生の時期です。これらの技術を取得するために時間を掛ければ、レッスン時間に比例して神経系の回路も急速に構築されるため、テクニックの向上が目に見えて顕著となります。生徒にとっては上達が目に見えるために、レッスンも楽しく、指導する教師も、時間を掛けてレッスンをするようになる年齢なのです。しかし、小学生高学年から中学生までの年齢は、身体は子供から青年への移行期であり、骨と関節は依然として未完成です。身体は非常にデリケートで、ひ弱なため、簡単に故障してしまうことを心に銘記する必要があります。「使いすぎ症候群」とアキレス腱周辺炎症トゥシューズを履き始める10歳前後の少女の多くが経験する障害にアキレス腱周辺炎症があります。かかとを引き上げ、つま先立ちして立つ、トゥシューズの稽古を熱心に自習している少女に多く発症するケースが目立つ障害です。かかとを引き上げる動作は、正しくは長母指屈筋を用いてかかとを引き上げます。しかし、かかとを引き上げる正しい筋肉を理解する前に、ふくらはぎの大きなヒラメ筋とヒフク筋でかかとを引き上げようとすることでアキレス腱に体重がすべて掛かってしまうのです。ふくらはぎは太くたくましい筋肉ですが、体重を引き上げる力はありません。そのためアキレス腱がかかとの骨に付着する周辺は繰り返し、体重を引き上げようとする無理な力がかかり、その動作が繰り返されることに耐え切れずに炎症を引き起こすのです。これがアキレス腱周辺炎症です。レッスンを休み、安静にすることで炎症はじきに治まり、痛みはなくなります。十分に脚の骨の成長と筋肉の張力の調和が取れるようになるまで、トゥシューズでのルルベアップの稽古はバレエ教師の指導の下で必ず行なうようにすることです。そして、レッスン後は、十分に休むことです。さもなければ、炎症が再発してしまいます。上手に休むことを学ぶ筋肉は、グリコーゲンを原料にエネルギーを得ます。足が疲れ、もう動かない状態はグリコーゲンを使い果たしたことを意味します。レッスン後は、十分に休息し、栄養を取ることを学ばなくてはなりません。優秀なダンサーは稽古と休息の取り方を身に付けています。バレエの障害では、患部の治癒促進のために、栄養を上手に患部に届ける必要があります。BFRリハビリを応用した「血流制限トレーニング(血液循環療法)」は、血液の循環効率を高め、酸素と栄養素をいち早く患部組織へ送り届けます。さらに、成長ホルモンをはじめとする内分泌ホルモンを高めることで治癒を促進してくれます。この結果「使いすぎ症候群」にも高い治療効果が見られ、中学1~2年生の腱周辺の炎症の治癒に高い効果があることが確認されています。従来では、レッスンを止め、休息を取ることで癒えるのを待つしかなかった12歳から15歳に掛けての年齢の若い成長期のダンサーのバレエ障害の治療にも、BFRリハビリを応用した「血流制限トレーニング(血液循環療法)」は高い治癒効果が期待されています。「里見悦郎のバレエ障害講座:BFRトレーニングを用いたバレエ障害治療」より