コラム

柔軟性とバレエ


  • BFRトレーニング
  • 筆者:里見 悦郎

クラシックバレエをはじめ、すべてのダンスを学ぶ上で、柔軟性が高いことは、より高度なテクニックを修得し、さらに、表現力を高めるためには非常に大切なこととされています。そのため欧米のバレエ学校に入学し、バレエを専門的に学ぶ上で、柔軟性が高いことが必須条件となっています。
では、何故、柔軟性が高いとバレエを学ぶ上で評価されるのでしょうか。それは柔軟性とは何であるのかを理解する必要があります。

「身体が柔らかい」、「身体が固い」と言われますが、「身体が固い」とはどういう意味でしょうか。この「身体が柔らかい」、「固い」を示す体力指数を「柔軟性」と言います。この柔軟性を示す指数は立位体前屈、又は長座位体前屈と言う測定方法により、「関節を動かせる範囲(可動域と言う)」で優劣を評価します。

すなわち、身体はおよそ206本の骨から成っており、それらの骨は275の関節によって継ぎ合わせられています。この関節の構造、関節の動きを支える筋肉とそのまわりの靭帯や腱などの結合組織、筋肉を調整する神経系などの要因により身体の硬さが決まります。

特に、身体の硬さは、主に、筋肉の力(筋力)と硬さに左右されます。例えば、足首の関節を曲げる時は、前頸骨筋と言う下腿部の前面(弁慶の泣き所の周辺)にある筋肉が収縮し、逆に下腿部の後ろ側にあるふくらはぎの筋肉が引き伸ばされます。足首が硬いとは、前頚骨筋の筋力が弱いか、ふくらはぎの筋肉が硬くなっているのかどうかであると考えられています。この硬い足首を柔らかくするには、関節を曲げる筋肉と伸ばす筋肉の筋力のバランスを良くすることが大切なのです。

すなわち、身体全体を柔らかくするためには、全身の筋力のバランスをとることです。筋力のバランスがとれた身体は、しなやかでダイナミックな動きをすることが可能になります。ですから、身体の柔らかいバレエダンサーの踊りは、より大きくしなやかな踊りができるのです。このため、身体が柔らかいことが良いダンサーになるためには必要なのです。

踊りの小さなダンサーは、275箇所の内、1ヶ所の関節の動きが小さいために、全身の動きが阻害されてしまい、大きなダイナミックな踊りができないのです。その関節の可動域を大きくなるように指導することで、バレエの踊りの質を変えることもできるのです。



柔らかい身体とバレエ障害



柔軟性のある身体は、全身275個の関節の可動域が広いということです。可動域が狭くなると、動く範囲が狭くなりますから、その部分の動きが小さくなってしまいます。ですから、ダイナミックな踊りはできません。

275箇所の関節のうち1ヶ所の動きが狭いと、その関節の部位に、全身運動である踊りのストレスがかかり、大きな力が掛かってしまいます。そのため、その1ヶ所の関節は力学的に、大きな力に耐え切れずに故障が発生します。これがバレエの怪我が、関節に発生するメカニズムとなります。

すなわち、足首は歩行時には、体重の2~3倍の衝撃が力学上かかります。しかし、ジャンプの着地時には、4~6倍の衝撃が掛かります。足首の2対の筋肉にアンバランスがあれば、足首は着地時に、衝撃を吸収できず、伸びることができない筋肉は大きなストレスを受けることとなります。この衝撃が繰り返されることにより、ストレスが加わり続けた部位の腱、靭帯、骨が故障することになります。

10歳から16歳までの身長が大きく伸びる急成長期の子どものアキレス腱周辺の腱、靭帯、筋肉、骨を痛める原因は、この力学上のメカニズムによります。成長期怪我をした関節は、その関節を伸ばす筋肉と伸ばされる筋肉との筋力に不均等があったために発生したのです。

バレエを学ぶ子どもには、一箇所の怪我を繰り返す子どもがいます。その原因の一つが関節を動かす対になっている2本の筋肉の筋力の調和が崩れていたためなのです。怪我をして、治療をしても、この対の筋肉の筋力を鍛え、良く伸びるようにし、関節の可動域を広げなければ怪我は再び発生してしまうのです。このバレエの障害発生の生体力学の知識がなければ、怪我を繰り返す子ども(成人のダ
ンサーも同じく)が生まれてしまうのです。そして、怪我をする責任は、この知識を持たずに子どもにバレエを教えるバレエ教師にあるのです。子どもは、バレエが大好きです。大好きなバレエを上達しようと一生懸命に努力します。この子どもの身体をバレエ障害から守り、バレエを上達させることができるかどうかは、バレエ教師の責任なのです。

バレエ障害のリハビリは、全身の筋肉のバランスを取り戻すことです。そのためには、故障した部位の関節の対になる2本の筋肉を鍛え、さらに、良く伸びる筋肉に変える必要があります。すなわち、その筋肉の質を関節に怪我を発生させない筋肉に変える指導が必要なのです。バレエ障害のリハビリ指導者には、ポアントで立ち、微妙な身体のバランスを取るダンサーの身体の動きを理解し、275個
の関節をバレエテクニックに合わせ、調和ある動きを可能とするために、より多くの知識を習得したプロフェショナルな指導力が求められるのです。

「里見悦郎のバレエ障害講座:BFRトレーニングを用いたバレエ障害治療」より

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