バレリーナは身体を使って踊ることで芸術を表現します。この身体を使った表現力を高めるためにはできるだけ多くの身体の知識を学ぶ必要があります。自身の身体がどのように作られているのか、身体を作るさまざまな器官の働きと構造はどのようになっているのかを知ることで、より高度なバレエテクニックを習得し、芸術性を高めることができると供に、怪我をすることなく、バレエを長く踊り続けることができるのです。そのためには基本的な医学の知識を習得しないとなりません。人間の足は、骨、筋肉、腱、靭帯、動脈、静脈、神経によって成り立つ複雑な器官です。身体の中で最も複雑な構造をしているのが足と手です。手は前足が進化したもので、その構造は足ととてもよく似ています。バレリーナはこの足で跳び、回転し、バランスを取り、宙を舞います。この足に何らかの痛みが発した時、それはこの足に重大なトラブルが発生していることを知らせてくれているのです。大切なことは、足の構造は望ましくない動きを避けるように設計されています。ですから、望ましくない動きが足で発生すると、内部組織の損傷を引き起こし、そのために痛みが発生するのです。この「痛み」を決して無視をしてはならないのです。足の構造とバレエ一般に、バレリーナはバレエの怪我を予防するための教育を受けていません。足がどのようにして障害を起すのかを知らないために、怪我を繰り返し起す原因となるのです。足に発生する損傷で、最も多いのが足関節捻挫、腱炎、骨膜炎、さまざまな骨折、シンスプリント(下腿痛)、足底腱膜炎です。これらの怪我を発生させる足の構造は骨から成り立っています。左右の足はそれぞれ28個の骨で構成されています。両方の足で全身の骨の4分の1を占めます。19の異なる筋肉と腱が骨に付着しています。腱は筋肉と骨とを結び付ける組織です。この筋肉と腱の働きで骨は動かされます。それぞれの足には30の異なる関節があり、112から117の靭帯が、骨がばらばらにならないように繋いでくれ、関節を覆い、骨に安定性を加えてくれます。足には非常に多くの血管と入り組んだ神経組織があります。片足には12万5千もの汗腺があります。すべての器官は強い結合性と保護作用のある筋膜(線維組織の膜)で包み込まれています。この足は、望ましくない動きを起すと、内部組織が傷つき、痛みを発する構造をしているのです。バレリーナにとっての足の痛みとは、「バレエを踊るのを止めて、その痛みの原因となるものをさがしなさい」という警告です。それでも踊り続けると、事態は深刻となり、その結果、長くバレエを休まなくてはならなくなります。バレエ障害の基本的な発生メカニズムとBFRリハビリ歩行をしている時、床を歩くたびに足には体重の2、3倍の力が力学上掛かります。1日に約8000から、1万歩歩くと、足は数百トンの衝撃に耐えていることになります。日常の生活時の歩行による衝撃に耐え、支障なく生活を送れるように、人の足は構造上、体重の2~3倍までの衝撃に耐えられるように作くられているのです。ですから、無理のない日常生活をすごし、通常の歩行運動をしている限り、足が故障を起すことは少ないのです。しかし、バレエを踊っている時、足には体重の4倍、ジャンプをすると6倍近い衝撃が掛かります。人の足は一生の間に地球を4周も歩けるように頑丈に作られているのですが、それは足への衝撃が体重の2~3倍の衝撃に限られている場合です。ですから、足は耐久可能な衝撃を上まわるジャンプを繰り返し受けた場合には、構造上、簡単に故障が発生してしまうのです。バレリーナは、ジャンプの衝撃を吸収する正しいジャンプからの着地テクニックを習得していない場合、足が耐えられる以上の衝撃を繰り返し受けることによりバレエ障害を発生させるのです。このようにして発生した骨の損傷、筋肉・腱の損傷、さらに、関節を保護する靭帯等の軟組織の損傷がバレエ特有の障害なのです。BFRリハビリは、これらの損傷を再生する成長ホルモンを分泌促進することにより、手術により、身体にメスを入れることなく、骨・筋肉・靭帯等の組織の細胞の再生を同時に進めることができるため、バレエ障害の治療として非常に適した運動療法なのです。「里見悦郎のバレエ障害講座:BFRトレーニングを用いたバレエ障害治療」より