バレエ・ダンス障害が注目されるようになったのは1980年代に入ってからのことです。1984年ロサンゼルスオリンピックは、アメリカにとって2度目のオリンピックでした。アメリカは金メダル獲得一位を目指し、科学的トレーニングの研究に本格的に着手し、スポーツ医科学が急速に発展したのです。このスポーツ医科学のお陰でスポーツ障害治療が発達し、それはバレエやダンス障害の治療にまで影響を及ぼしたのです。1984年ロンドン、1985年ニューヨークのルーズベルト医院にバレエ・ダンス障害専門診療外来が開設され、ダンサーの治療が始ました 日本のダンス・バレエ障害の治療は、欧米より10年以上遅れて始まりました。特に、バレエダンサーの治療に大切なのはリハビリです。術後の逸早い復帰は、ダンサーと教師にとって大切な課題です。バレエ・ダンスと足の怪我アメリカの調査では、アメリカ人の87%(約2億人)が一生のうちで一度は足の障害を起こします。疫学的には、1000の障害の内、20は足の骨格異常が原因で発生した障害でした。すなわち、980の障害は問題のない健康な足に起こるのです。このためアメリカでは足の障害は、癌・心臓病に次ぐ第3の難病と言われ、足を専門に治療する整形外科医が養成されています。しかも、女性は男性の4倍も多く足のトラブルを経験します。このため1年間に2億ドル(24億円)が店頭販売の足の薬や治療器具に支払われています。女性にとって足の障害はとても切実な問題となっています。問題なのは、ダンス人口は女性が圧倒的に多く、その女性は足の障害を起こしやすい傾向にあることです。日本の調査では、バレエダンサーは15歳から、20歳までの間に手術を伴う治療が必要な怪我を30%が経験しています。手術まで行かなくとも治療が必要な怪我は70%近いダンサーに発生していました。さらに、バレエ教師は90%が何らかの障害を持っています。アメリカでは、年間3500万人が足専門の整形外科医の治療を受けています。これらの多くはスポーツが原因による障害であり、これにバレエ・ダンスの怪我が含まれていました。最近日本では、ダンス人口が急速に増加し、青少年・プロダンサーばかりではなく、中高年のダンス障害が増えています。ダンスの種類も増え、怪我も多様になった為、その治療にダンス専門の治療が求められるようになったのです。バレエは10歳前後からの英才教育が必要なため、バレエ障害は10代の成長期の障害と20代から30代までのプロダンサーの怪我に分れました。しかし、最近では、健康・フィットネスブームとカルチャーブームにより、30代、40代のOLや女性にダンス障害が増加しているのが日本のバレエ・ダンス障害の特徴です。したがって、これまでのバレエ・ダンス障害とは別に、30代以上の女性ためのバレエ・ダンス障害治療が重要となったのです。「里見悦郎のバレエ障害講座:BFRトレーニングを用いたバレエ障害治療」より