肝臓では非常に多くの代謝が行われます。グリコーゲンを溜めたり解毒機能を持っていたりするのは有名ですが、他にもアミノ酸の変換やケトン体合成、胆汁の生成、ビタミンA貯蔵など、様々な機能を担っています。糖質と脂肪、タンパク質の三大栄養素はすべて肝臓で代謝され、また乳酸をピルビン酸にしたりグルコースに戻したりするのも肝臓の役目です。つまり肝機能が衰えていると、エネルギーも不足しますし疲労も溜まってしまいます。肝機能が低下しているとき、実はあまり役立つ医薬品はありません。そのため肝臓を悪くしたときに医者が真っ先に言うのが、「安静にしろ」ということです。横になり、安静にすることによって肝臓への血流が増加して治癒が促進されるのです。治療のためには意外に生薬が良く使われ、漢方の甘草(グリチルリチン)や田七人参、ウコン、動物性生薬の熊胆をもとにしたウルソ、西洋ハーブのマリアアザミからつくられるシリマリンなどに有効性が認められています。そしてアミノ酸の「システイン」にもグルタチオンの材料となり、肝機能を高める作用が認められています。特にシステインをアセチル化させて効率を高めたNアセチルシステイン(NAC)が有効となります。肝切除後肝不全に対する治療効果(※1)や、肝機能低下に伴って向上してしまったAST、ALTなどの低下(※2)、ビリルビンやIL-8の低下による肝中静脈閉塞症への効果(※3)、抗酸化作用によるⅠ型糖尿病への罹患率低下(※4)などのほか、エクササイズによって起こる酸化ストレスを軽減させたり(※5)、有酸素運動後の筋収縮力低下を防いだり(※6)といった効果が期待できます。摂取量として、通常は抗酸化作用を期待するために一日600mg程度とし、風邪を引いたり肝機能が低下していたりするときは一日に2400mg程度まで増やしてもいいでしょう。なおホエイプロテインにはシステインが多く含まれるため、ホエイを多めに飲むのも良いことです。食事では卵を食べることでシステインを摂ることができます。※1:肝切除後肝不全に対する新しい治療戦略 -N-acetylcysteine投与による治療報告-日消外会誌 35(9):1546~1550, 2002※2:The effect of N-acetyl-l-cysteine (NAC) on liver toxicity and clinical outcome after hematopoietic stem cell transplantationSci Rep. 2018; 8: 8293.※3:N-acetylcysteine for hepatic veno-occlusive disease after allogeneic stem cell transplantation.Bone Marrow Transplant. 2000 May;25(9):993-6.※4:N-Acetyl-l-Cysteine Supplement in Early Life or Adulthood Reduces Progression of Diabetes in Nonobese Diabetic Mice.Curr Dev Nutr. 2018 Nov 28;3(4):nzy097. doi: 10.1093/cdn/nzy097. eCollection 2019 Apr.※5:N-acetylcysteine supplementation increases exercise performance and reduces oxidative stress only in individuals with low levels of glutathione.Free Radic Biol Med. 2018 Feb 1;115:288-297. doi: 10.1016/j.freeradbiomed.2017.12.007. Epub 2017 Dec 9.※6:Effects of N-acetylcysteine on isolated skeletal muscle contractile properties after an acute bout of aerobic exercise.Life Sci. 2017 Dec 15;191:46-51. doi: 10.1016/j.lfs.2017.10.012. Epub 2017 Oct 10.