疲労物質は乳酸であるという説は20世紀初めから言われ始め、以後一世紀に渡って信じられてきました。そして最近になり、ようやく乳酸は疲労の原因ではなく結果であり、むしろエネルギーにもなっているのではないかと言われるようになりました。疲労の原因物質については未だにハッキリと分かっていない状態ですが、2001年におけるNielsenらによる「カリウムイオンが筋疲労のカギであり、乳酸は筋肉からカリウムイオンが流出するのを防ぐことによって、むしろ疲労を軽減させる」という発表(※1)は大いにインパクトを与えました。筋細胞内からカリウムイオンが流出し、横行小管の細胞外側にカリウムイオンが蓄積すると、ナトリウムチャネルの機能が低下して活動電位が伝導しにくくなるのです。最近になって出てきた説では、運動によって発生する活性酸素による酸化ダメージこそが、疲労の原因ではないかとされています。つまりカリウムイオンの流出を防ぎ、活性酸素の害を減らすことが、疲労を軽減させることにつながるということになります。さて、平均年齢25歳、10名の活動的な男性を対象に、6週間にわたってインターバル・サイクリングを行ってもらった研究があります。片方の脚は血流制限を行い(最大で180mmHg)、もう片方の脚は血流制限を行いませんでした。(※2)その結果、血流制限を行ったほうの脚はパフォーマンスが高くなり、強度の高いエクササイズ時におけるカリウムイオンの流出が減っていました。さらに活性酸素除去能力も高まっていたのです。つまりBFRトレーニングによって活性酸素除去能力が高まり、それによって疲労への耐性が高い筋肉をつくることができたということになります。今後のさらなる研究が望まれます。※1:Protective effects of lactic acid on force production in rat skeletal muscle.J Physiol. 2001 Oct 1;536(Pt 1):161-6.※2:Cycling with blood flow restriction improves performance and muscle K+ regulation and alters the effect of antioxidant infusion in humans.J Physiol. 2019 Mar 7. doi: 10.1113/JP277657.